問1
を計算した結果を の形で表しなさい。
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目次 / 数と式 / 数学II
—— 2乗して −1 になる数を仲間に入れ、どんな2次方程式にも解がある世界へ ——
この章では、数の範囲を実数から「複素数」へ広げます。これまで $x^2 = -1$ のような方程式は「実数の範囲で解なし」で止めていました。第10章で見たとおり、実数は2乗すると必ず $0$ 以上になるからです。そこで、2乗すると $-1$ になる新しい数 $i$ を考え、$a + bi$ の形の数の計算(四則と共役)を身につけます。そのうえで、2次方程式の解の公式を導き、判別式が負のときの解が複素数として表せることを確かめます。最後に、2つの解の和と積を係数から読みとる「解と係数の関係」を学び、解を求めずに式の値を計算したり、2つの数から2次方程式をつくったりします。
2次方程式 は、これまで「実数の範囲で解なし」としてきました。第10章で見たように、実数 はどれも なので、2乗して になる実数はありません。そこで、数の範囲そのものを広げます。
2乗すると になる新しい数を1つ考え、 で表す。 を虚数単位という。
実数 , を使って の形に表される数を複素数という。 を実部、 を虚部という。
複素数の相等 ,,, が実数のとき
特に である。
実数も「虚部が の複素数」として複素数の仲間に入ります。つまり、数の範囲は「実数 複素数」と広がりました。相等の性質は、第3章で学んだ「, が有理数のとき 」と同じ形をしています。 が有理数でないように、 も実数ではないので、実部どうし・虚部どうしを別々に比べられるのです。
温度計を思い出してください。 ℃までの目盛りしかない温度計では、冬の朝の冷え込みを記録できません。 ℃より下に目盛りを書き足したことで、「 ℃」が読めるようになりました。小学校では「 は計算できない」と言っていたのに、負の数を習ってからは計算できるようになったのと同じです。 は、2乗して負になる数のための新しい目盛りだと考えてください。
住所の「3丁目5番地」と「3丁目7番地」は、丁目が同じでも別の家です。丁目と番地が両方そろって、初めて同じ家だといえます。複素数も、実部と虚部の両方が等しいときにだけ等しくなります。
となる を加えて、 の形の数(複素数)まで数の範囲を広げ、2つの複素数は実部どうし・虚部どうしが等しいときに等しいということです。
次の等式を満たす実数 , の値を求めなさい。
(1)
(2)
【解答】
(1) , は実数なので、実部と虚部がどちらも です。
よって です。
(2) , は実数なので、実部と虚部をそれぞれ比べます。
1つ目から を2つ目に代入すると より 、 です。よって です。
「, が実数」という条件があるから、実部と虚部を分けて比べられます。この条件は必ず確かめましょう。
複素数の足し算・引き算・かけ算は、 を文字のように扱って計算し、 が出てきたら に置きかえます。
,,, が実数のとき
かけ算は、展開してから を使って整理する。計算の結果は の形で答える。
かけ算の式を覚える必要はありません。 と展開し、 として実部と虚部を集めれば、公式の形になります。第1章の乗法公式も、そのまま使えます。 の累乗は
で、 なので からは同じ4つの値がくり返し現れます。
時計の計算では、分が になったら「1時間」に直します。 時間 分に 分を足すと 時間 分ですが、そのままにせず 時間 分と書き直します。複素数の計算も同じで、ふつうに展開して、 が現れたらそのつど に直してから答えます。
複素数の加減乗は を文字と見て計算し、 を に直して実部と虚部にまとめればよいということです。
次の計算をした結果を の形で表しなさい。
(1)
(2)
(3)
【解答】
(1) 実部どうし、虚部どうしを計算します。
(2) 展開して を使います。
(3) まず を計算します。
よって です。 の形では 、つまり です。
割り算には、次の「相棒」になる複素数を使います。
複素数 に対して、虚部の符号を変えた を と共役な複素数といい、 で表す。
どちらも実数になる。
割り算 は、分母と共役な複素数 を分母・分子にかけて、分母を実数にしてから計算する。
これは第3章の分母の有理化とそっくりです。 で分母・分子に をかけたように、 では をかけます。 となって、 が消えるのがポイントです。
鏡に映った自分は、左右だけが入れかわった姿です。 と も、実部はそのままで虚部の向きだけが反対になった「鏡映し」の関係です。本人と鏡の像を足しても、かけても、虚部がきれいに打ち消されて実数だけが残ります。
と は互いに共役で、かけると実数 になるので、割り算は分母の共役をかけて分母を実数にすればよいということです。
次の計算をした結果を の形で表しなさい。
(1)
(2)
【解答】
(1) 分母と共役な を分母・分子にかけます。
(2) 通分すると、分母は です。
(2) の2つの分数は互いに共役で、その和は実数になりました。公式3の の例です。
を使うと、負の数の平方根も表せます。
のとき、 の平方根は である。そこで
と定める。特に である。
注意 , でも、 は成り立たない。根号の中が負の数のときは、まず を使った形に直してから計算する。
, なので、 はたしかに の平方根です。そのうち のほうを と書くことにしました。
注意の例として を計算すると、 です。うっかり とすると、符号を間違えます。第3章の は、, のときにだけ使える約束でした。
学割は、学生証を見せられる人だけが使える割引です。どんなに便利でも、条件を満たさない人が使えば「ルール違反」になります。 も、根号の中が 以上という「学生証」があるときだけ使える計算ルールです。
のとき で、根号の中が負の数なら先に を出してから計算すればよいということです。
(1) を計算した結果を求めなさい。
(2) を計算した結果を求めなさい。
(3) 2次方程式 の解を求めなさい。
【解答】
(1) 先に を使った形に直します。
とするのは誤りです。
(2) なので
(3) は の平方根なので、 です。
2次方程式の解は、平方完成(第10章でも使いました)によって、係数だけで表すことができます。
,, が実数で のとき、2次方程式 の解は
である。 のときも、公式4によって は虚数として表せる。
の係数が偶数で のときは、次の形が便利である。
導き方を見ておきましょう。両辺を で割って平方完成すると
となります。右辺の平方根をとって から、公式が得られます。これまでは右辺が負のとき「実数の範囲で解なし」でしたが、複素数の範囲では の2つの虚数が解になります。このように、複素数の範囲では2次方程式はいつでも解をもちます。以降、特に断らなければ、方程式の解は複素数の範囲で考えます。実数である解を実数解、虚数である解を虚数解といいます。
虚数解が出るとき、2つの解は と の形で、互いに共役になっています( の部分だけが違うからです)。
ホテルのマスターキーは、どの部屋のドアでも開けられます。部屋ごとに鍵を探す必要はありません。因数分解は「その式に合う鍵」を探す作業ですが、解の公式はどんな2次方程式にも使えるマスターキーです。しかも複素数の範囲なら、開かないドア(解なし)はもうありません。
2次方程式は解の公式でいつでも解け、 のときは互いに共役な2つの虚数が解になるということです。
次の2次方程式の解を求めなさい。
(1)
(2)
(3)
【解答】
(1) なので の公式を使います。
(2) として
(3) は奇数なので、もとの公式を使います。
どれも、2つの解は互いに共役になっています。
解の公式の根号の中身を見れば、解を求めなくても解の種類が分かります。
実数を係数とする2次方程式 について、 を判別式という。
のときは、 の符号を調べてもよい。
のとき、解の公式の が になり、2つの解が の1つに重なります。これを重解といいます。「実数解をもつ」条件は です。
宅配便の箱を受け取ったとき、開ける前に伝票の「品名」欄を見れば、中身が本なのか食べ物なのかが分かります。判別式も同じで、解そのもの(箱の中身)を計算する前に、 という伝票を1つ見るだけで、実数解か重解か虚数解かが分かります。
判別式 の符号(正・・負)を見れば、解を求めなくても解の種類が分かるということです。
(1) 次の2次方程式の解の種類を求めなさい。
① ② ③
(2) 2次方程式 が虚数解をもつような定数 の値の範囲を求めなさい。
【解答】
(1)
① なので、 です。
② なので、 です(重解は )。
③ なので、 です。
(2) 虚数解をもつ条件は です。
よって です。
2つの解を足したり、かけたりすると、根号も も消えて、係数だけで表せます。
2次方程式 の2つの解を , とすると
が成り立つ(重解のときは として成り立つ)。
解の公式から確かめられます。 として , とすると
です。 で が虚数のときも、 は成り立つので同じ計算になります。
のような「 と を入れかえても変わらない式(対称式)」は、第3章の公式7で学んだように と で表せます。そのため、解を求めずに値が計算できます。
サッカーの試合結果は、チームの合計得点を見れば分かります。誰が何点入れたかを1人ずつ調べなくても、勝ち負けを決めるには合計だけで十分です。2つの解も、1つずつ求めなくても、和と積という「チームの成績」が係数から読みとれます。対称式の値なら、それだけで計算できるのです。
2つの解の和は 、積は なので、対称式の値は解を求めずに係数から計算できるということです。
2次方程式 の2つの解を , とするとき、次の式の値を求めなさい。
(1) (2) (3)
【解答】
解と係数の関係より , です。
(1)
(2)
(3) 通分して (1) を使います。
この方程式の解は虚数()なので、2乗の和 が負になっても不思議ではありません。
解と係数の関係を逆向きに使うと、解から方程式をつくることができます。
2数 , を解とする2次方程式の1つは
である。また、2次方程式 の2つの解を , とすると、2次式は
と因数分解できる。複素数の範囲では、2次式はいつでも1次式の積に因数分解できる。
なので、左辺が になるのはちょうど , のときです。また、 から、因数分解の式も分かります。第2章では「係数は有理数の範囲」で因数分解しましたが、複素数の範囲まで広げると、どんな2次式も分解できるようになります。
クイズ番組の問題作成者は、先に答えを決めてから、その答えになる問題を考えます。「答えは と 」と決めたら、「足して 、かけて 」になる を出題すればよいのです。
和 と積 が分かれば、 として2数を解とする方程式がつくれ、2次式は解を使って因数分解できるということです。
(1) 2数 , を解とする2次方程式を1つ求めなさい。
(2) 2次式 を、複素数の範囲で因数分解した式を求めなさい。
(3) 2次方程式 が を解にもつとき、実数 , の値を求めなさい。
【解答】
(1) 和は 、積は です。よって です。
(2) の解は、 として です。よって
(3) 係数が実数なので、虚数解は互いに共役です(公式5のあとで確かめました)。もう1つの解は です。解と係数の関係より
よって です。
(3) は、 を代入して「実部 かつ 虚部 」から求めることもできます。 なので、 から同じ答えになります。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
を計算した結果を の形で表しなさい。
()
問2
を計算した結果を の形で表しなさい。
(分母・分子に をかけて )
問3
を計算した結果を求めなさい。
()
問4
2次方程式 の解を求めなさい。
()
問5
2次方程式 の2つの解の和と積を求めなさい。
和 、積 (解と係数の関係)
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
等式 を満たす実数 , の値を求めなさい。
, は実数なので、実部と虚部をそれぞれ比べます。
2つ目から を1つ目に代入すると より 、 です。
よって です。
問2 ★
(1) (2)
上の (1)(2) を計算した結果を、それぞれ の形で表しなさい。
(1) (2)
(1) 展開して を使います。
(2) まず2乗を計算します。
これに をかけます。
問3 ★
の値と、 の値をそれぞれ求めなさい。
,
なので、 の累乗は4つごとに同じ値をくり返します。
より
続く4つの累乗の和は です。 から までの8項は、この4つの組が2回なので和は です。残りは , なので
問4 ★
を計算した結果を の形で表しなさい。
分母と共役な を分母・分子にかけます。
(確かめ) で、たしかに分子に戻ります。
問5 ★
(1) (2)
上の (1)(2) を計算した結果を、それぞれ求めなさい。
(1) (2)
根号の中が負の数のときは、先に を使った形に直します。
(1)
とすると符号を間違えます。
(2) , なので
は分母・分子に をかけて と直せます。
問6 ★
(1) (2)
上の (1)(2) の2次方程式の解を、それぞれ求めなさい。
(1) (2)
どちらも の係数が偶数なので、 を使う公式が便利です。
(1) として
(2) として
問7 ★
(1) (2) (3)
上の (1)〜(3) の2次方程式の解の種類(異なる2つの実数解・重解・異なる2つの虚数解のどれか)を、それぞれ求めなさい。
(1) 異なる2つの実数解 (2) 重解 (3) 異なる2つの虚数解
判別式 の符号を調べます。
(1) なので、 です。
(2) なので、 です(重解は )。
(3) なので、 です。
係数に のような無理数が入っていても、係数が実数なら判別式が使えます。
問8 ★
2次方程式 の2つの解を , とするとき、 と の値をそれぞれ求めなさい。
,
解と係数の関係より
です。
の係数が でないときは、, の で割るのを忘れないようにしましょう。
問9 ★★
等式 を満たす実数 , の値を求めなさい。
左辺を実部と虚部に整理します。
, は実数なので、, も実数です。右辺と比べて
辺々引くと より 、 です。よって です。
(確かめ) です。
実部と虚部に分ける前に、「, が実数だから、整理した実部・虚部も実数」と確かめるのが大切です。
問10 ★★
を満たす複素数 をすべて求めなさい。
(, は実数)とおきます。
これが に等しいので、実部と虚部を比べて
1つ目から で、 または です。
よって です。
(確かめ), です。
「, は実数」なので、 となる場合を捨てられます。
問11 ★★
が実数となるような実数 の値と、純虚数となるような実数 の値をそれぞれ求めなさい。
実数となるのは ,純虚数となるのは
まず の形に直します。
は実数なので、 が実部、 が虚部です。
純虚数の条件では「虚部 」の確認を忘れないようにしましょう。
問12 ★★
2次方程式 が重解をもつような定数 の値と、そのときの重解を求めなさい。
のとき重解 , のとき重解
重解をもつ条件は です。
より です。重解は です。
よって のとき , のとき です。
問13 ★★
2次方程式 が虚数解をもつような定数 の値の範囲を求めなさい。
「2次方程式」なので、 の係数は ではありません。つまり です。
虚数解をもつ条件は です。 として
より です。これは を満たします。
よって です。
のとき式は という1次方程式になり、判別式は使えません。問題が「2次方程式」と言っているか、係数に文字があるときは必ず確かめましょう。
問14 ★★
2次方程式 の1つの解が他の解の3倍であるとき、定数 の値と2つの解を求めなさい。
のとき解は ; のとき解は
2つの解を , とおきます。解と係数の関係より
2つ目から で です。1つ目の に代入します。
よって です。
(確かめ), です。
解を , のように1つの文字で表すと、解と係数の関係から連立方程式が立ちます。
問15 ★★
2次方程式 の2つの解を , とするとき、次の (1)(2) の2数を解とする2次方程式を1つずつ求めなさい。
(1) (2)
上の (1)(2) の答えをそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
解と係数の関係より , です。新しい2数の和と積を求めて、 をつくります。
(1)
よって です。
(2)
よって です。
, は虚数ですが、1つずつ求めなくても和と積だけで答えが出ます。
問16 ★★
(1) (2)
上の (1)(2) を、複素数の範囲で因数分解した式をそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) の解は、 として です。よって
(2) まず有理数の範囲で因数分解します。
の解は なので、 です。よって
「どの数の範囲で因数分解するか」によって答えが変わります。有理数の範囲なら (2) は で止まります。
問17 ★★★
2次方程式 の解の1つを とするとき、 の値と の値をそれぞれ求めなさい。
,
は を満たします。両辺に をかけると
なので、 です(第2章の の因数分解)。
, より
よって
また、 より なので
を直接代入しなくても、 と の2つだけで計算できます。 は3乗すると になる虚数で、「 の3乗根」の1つです。
問18 ★★★
のとき、 の値を求めなさい。
から、 が満たす2次方程式をつくります。 の両辺を2乗すると
第7章の次数下げと同じように、与えられた式を で割ります。
なので、式の値は余りの に等しくなります。
(確かめ), なので
で一致します。
問19 ★★★
2次方程式 の2つの解を , とするとき、, を解とする2次方程式を1つ求めなさい。
解と係数の関係より , です。 と の和と積を求めます。
よって求める方程式は 、つまり です。
この方程式は で、重解 をもちます。つまり です。実際、, は で、どちらも3乗すると になります。
(確かめ), です。
の両辺に をかけると になることからも、 が分かります。
問20 ★★★
のとき、 の値と の値をそれぞれ求めなさい。
,
両辺に ()をかけると
判別式は なので、 は虚数 です。実数の範囲では となる はありませんでしたが、複素数の範囲では値が決まります。
両辺に をかけると
よって です。
なので
同じように です。よって
第8章の「 を用いた式の値」は、解が虚数になる場合でもそのまま使えます。
16世紀のイタリアでは、3次方程式の解き方をめぐって数学者たちが公開の試合をしていました。1545年、カルダーノは著書『アルス・マグナ(偉大なる術)』で3次方程式の解の公式を発表します。
同じ本の中で、カルダーノは「 を2つに分けて、その積を にせよ」という問題を取り上げました。答えは と です。たしかに足すと 、かけると になります。けれどもカルダーノは、この計算を「巧妙だが役に立たない」ものとして扱いました(言い回しの訳は※諸説あり)。
困ったのは、3次方程式の公式のほうでした。1572年、ボンベリは『代数学』の中で を取り上げます。 という実数の解があるのに、公式に当てはめると
と、負の数の平方根が出てきてしまうのです。ボンベリは、この章のことばでいえば となることに気づきました。すると2つの項は となり、虚数が打ち消し合って、ちゃんと実数の解 が出てきます。
2次方程式なら「解なし」と言って逃げられますが、3次方程式では、実数の答えにたどり着く途中で虚数を通らなければならないことがありました。虚数は、こうして「避けて通れない道具」として数学に入ってきたのです。
豆知識
カルダーノの問題「和が 、積が 」は、解と係数の関係(公式8)を使えば を解くことと同じです。判別式は で、実数の範囲には答えがありません。
「虚数」は英語で imaginary number、つまり「想像上の数」です。この呼び名のもとは、デカルトが1637年の『幾何学』で、方程式の解のうち実際には存在しないように見えるものを「imaginaires(想像上のもの)」と呼んだことにあるといわれます。当時の数学者にとって、 は計算の途中にだけ現れる、正体のはっきりしない数でした。日本語の「虚」も「実」の反対の意味で、呼び名にその戸惑いが残っています。
を という1文字で表したのは、18世紀のオイラーです。imaginarius の頭文字をとったと考えられており、1777年に書いた論文で使ったとされます(発表は死後の1794年。※諸説あり)。その後、ガウスが を積極的に使い、 の形の数を「複素数(complex number)」と名づけたことで、記号も呼び名も広まりました。complex は「いくつかの部分が組み合わさった」という意味で、実部と虚部の2つからできている数にぴったりの名前です。
豆知識
プログラミング言語の Python では、複素数をそのまま計算できます。ただし虚数単位は i ではなく j で、(2+3j)*(4-1j) と入力すると (11+10j) が返ってきます(例題2(2) と同じ答えです)。電気の分野では を電流の記号に使うため、虚数単位を と書く習慣があり、Python もそれに合わせています。
家庭のコンセントに来ている電気は、電流の向きが1秒間に何十回も入れかわる「交流」です。交流の回路では、抵抗のほかに、コイルやコンデンサーが電流の流れにくさを生みます。ところが、コイルやコンデンサーの効き方は、抵抗とは「タイミングがずれた」ものになるため、ふつうに足し算することができません。
19世紀の終わりに、電気技術者のスタインメッツは、この流れにくさを複素数で表す方法を広めました(1893年の講演・論文)。抵抗の値を実部、コイルやコンデンサーによる流れにくさを虚部として
のように書き、これをインピーダンスと呼びます(電気の分野なので虚数単位は )。こうすると、複雑な回路の計算が、複素数の足し算・かけ算・割り算だけでできるようになります。本来なら微分方程式という難しい道具が必要な計算を、この章で学んだ四則計算に置きかえられるのです。
たとえば、抵抗が Ω、コイルによる流れにくさが Ω の回路では です。全体の流れにくさの大きさは Ω で、 Ω にはなりません。この「大きさ」は、共役な複素数との積 の平方根になっています。
豆知識
複素数の「大きさ」 は、複素数平面の分野で絶対値として学びます。そこでは複素数を平面上の点として表し、 の大きさが原点からの距離になることが分かります。
※ここは発展ページです。本文では「2乗すると になる数 を考える」と宣言して複素数を導入しました。しかし、「そんな数があると考える」だけで、本当に矛盾なく計算できるのでしょうか。ここでは、実数だけを材料にして複素数をつくり直し、本文の計算がすべて正しいことを確かめます。あわせて、複素数には大小が定められないことを証明します。
アイルランドの数学者ハミルトンは1837年、複素数を「実数の組」として定義しました。こうすると、正体の分からない に頼らずに済みます。
実数 , の組 を複素数という。2つの複素数が等しいのは、組の成分がそれぞれ等しいときとする。
和と積を次のように定める。
積の定め方は、本文の公式2 をそのまま写したものです。ここからは を一切使わずに進めます。
つまり、組 はそのまま本文の であり、 は「仮定」ではなく、積の定義から導かれる結果になりました。本文の公式1の「複素数の相等」も、組が等しいことの定義そのものです。
交換法則・結合法則・分配法則も、成分ごとに実数の計算に帰着させて確かめられます。たとえば積の交換法則は、 が と等しいことから分かります。
でない複素数 には、 となる複素数 がただ1つある。それは
である。
証明 より、, の少なくとも一方は でない。第10章の厳密定義 定理1 より なので、 の分母は にならない。
また、, となる , があれば、 となり、ただ1つである。(証明終)
したがって、 でない数での割り算 がいつでもできます。複素数は、実数と同じように四則計算( で割ることを除く)で閉じた数の集まりです。
第4章の厳密定義では、実数の大小を「正の数」の性質から定めました。
実数の不等式の性質は、すべてこの2つから導かれました。複素数でも同じような「正の数」を選べるでしょうか。
複素数全体の中から、三分律と「和と積で閉じる」の2つの性質を満たすように「正の数」を選ぶことはできない。
証明 そのように選べたとして矛盾を導く(背理法)。
まず、 でない複素数 について は正であることを示す。三分律より、 が正か が正のどちらかである。 が正なら は正、 が正なら は正である。
なので、 は正である。一方、 なので も正である。すると、 について「 が正」と「 が正」が同時に成り立ち、三分律に反する。(証明終)
実数では「 でない数の2乗は正」が成り立ち、第10章の不等式の証明はすべてこれを土台にしていました。ところが複素数では となるので、この土台が崩れてしまいます。そのため、 と のどちらが大きいか、といった比べ方には意味がありません。不等式は実数どうしでだけ考えます。本文の公式6の判別式の条件「」も、 が実数(係数が実数)だから意味をもつのです。
複素数 , について、次が成り立つ。
(1) ,
(2)
(3) が実数
証明 ,(,,, は実数)とする。
(1) より 。差も同様である。
(2) より 。一方
で、両者は等しい。
(3) は 、つまり と同じで、これは ( が実数)と同じである。(証明終)
(2) をくり返し使うと が分かります。「共役をとってから計算しても、計算してから共役をとっても同じ」というのが、この定理の意味です。
の係数 ,, がすべて実数のとき、複素数 が を満たせば、 も成り立つ。
証明 定理3 の (1)(2) と、実数 では であること((3))を使うと
なので、 である。(証明終)
本文では、2次方程式の虚数解が互いに共役になることを解の公式の から確かめました。定理4は、それが何次の方程式でも成り立つことを示しています。係数が実数なら、虚数解はいつも共役とペアで現れるのです。第12章の高次方程式で、この性質を使います。
係数に虚数が入ると、定理4は成り立ちません。たとえば の解は と (j10)で、 と共役な は解ではありません。
実数の範囲では に解がありませんでしたが、複素数の範囲ではどんな2次方程式にも解があります。では、3次・4次、さらに高い次数の方程式を解くために、また新しい数を付け加える必要があるでしょうか。答えは「いいえ」です。
複素数を係数とする 次以上の方程式は、複素数の範囲に少なくとも1つの解をもつ。
この定理と第12章の因数定理を組み合わせると、 次方程式は、重解を重複して数えればちょうど 個の複素数の解をもつことが分かります。証明には高校の範囲をこえる道具が必要です。ガウスは1799年の学位論文でこの定理を証明しましたが、その証明には後から見ると足りない部分があり(※評価は諸説あり)、ガウス自身も生涯に何通りもの証明を与えました。複素数は、方程式を解くためにこれ以上数を広げなくてよい、行き止まりの「完成した」数の世界なのです。
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