問1
のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
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差 ( より)
目次 / 数と式 / 数学II
—— 差をとる・2乗する・平均で挟む — 大小を確かめる道具をそろえる ——
この章では、不等式が「いつでも成り立つ」ことを証明する方法を学びます。第9章の等式の証明で使った「差をとる」方法を不等式に広げ、差が正であることを示すところから始めます。そのうえで、「実数の2乗は $0$ 以上」という性質、両辺を2乗して比べる方法、そして応用範囲の広い「相加平均と相乗平均の大小関係」を扱い、最小値を求める問題にも使います。最後に、第9章で証明した等式から導かれる「コーシー・シュワルツの不等式」まで進みます。どの証明でも、等号がいつ成り立つかを確かめることを大切にします。
第9章では、等式 を「 を示す」ことで証明しました。不等式でも同じ考え方が主役になります。
実数 , について
したがって、不等式 を証明するには、差 を変形して正であることを示せばよい。
差が正であることを示すには、差を正の数の積や和の形に変形することが多い。
差を変形して、たとえば のような積にできれば、それぞれの因数の符号から全体の符号が分かります。第4章で学んだ不等式の性質(両辺に同じ数を足しても不等号の向きは変わらない、など)も、必要に応じて使います。
陸上の100m走で、2人のどちらが速かったかを知るには、それぞれのタイムを細かく読むより「着差」を見るのが確実です。「A さんのほうが 秒速い」と差が正であることが分かれば、それだけで勝ち負けが決まります。不等式の証明も、2つの式を別々に眺めるのではなく、差1つの符号に注目します。
を示すには、差 を積や和の形に変形して、正になることを確かめればよいということです。
(1) のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
(2) , のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
【解答】
(1) 差をとります。
より なので、差は正です。よって です。(証明終)
(2) 差をとって因数分解します。
, より , なので、積は正です。よって です。(証明終)
(2) では、差を「正の数 正の数」の形にしたことで、符号がすぐに分かりました。
差をうまく因数分解できないときに頼りになるのが、次の性質です。
実数 について
実数 , について
差を「 の和」の形に変形できれば、差は 以上だといえる。
差が 次式のときは、平方完成(第1章の の展開の逆)を使って2乗の形をつくります。 の不等式では、等号がいつ成り立つかも合わせて答えるのが習慣です。「 となるのはかっこの中が のとき」から、等号の条件が読みとれます。
ダーツの的の中心からのずれを記録するとき、右に cm と左に cm では符号が逆になります。ずれを2乗すると、どちらも で、プラスとマイナスの区別が消えます。2乗した量はけっして負になりません。この「負にならない量の和」に差を書きかえるのが、公式2の使い方です。
差を2乗の和の形に変形すれば、差が 以上であることと、等号が成り立つ条件が同時に分かるということです。
次の不等式を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
(1)
(2)
【解答】
(1)
よって です。等号は 、つまり のときに成り立ちます。(証明終)
(2) 第9章の例題5(2) で示した等式を使います。
よって です。等号は ,, がすべて成り立つとき、つまり のときに成り立ちます。(証明終)
や絶対値を含む不等式では、差をそのまま扱いにくいことがあります。そのときは両辺を2乗して比べます。
, のとき
両辺が 以上であることを確かめてから、2乗して比べる。
絶対値については、,, がよく使われる。
理由は、 で、 なら と の符号が一致するからです( のときは両方 )。両辺のどちらかが負のときは使えません。たとえば ですが、2乗すると で向きが逆になります。
正方形の畑は、一辺が長いほど面積も広くなります。一辺 m と m なら、面積は m² と m² で、大小の順は変わりません。長さのように 以上の量なら、2乗しても大小の順がそのまま保たれるということです。
両辺が 以上なら、2乗して比べても大小は変わらないので、 や絶対値を外してから差をとればよいということです。
(1) , のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
(2) 不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
【解答】
(1) 両辺は正なので、2乗の差を調べます。
よって で、, なので です。(証明終)
(2) 両辺は 以上なので、2乗の差を調べます。, を使うと
( だからです。)よって です。(証明終)
等号は 、つまり のときに成り立ちます。
(2) は第4章の厳密定義で場合分けによって証明した三角不等式です。2乗を使うと、場合分けなしで示せます。
2つの正の数 , について、 を相加平均、 を相乗平均といいます。ふつうの「平均」が相加平均で、相乗平均は「かけて平均する」ものです。
, のとき
同じことを の形で使うことも多い。
証明は公式2の応用です。, と見ると
で、等号は 、つまり のときです。
周りの長さが m のロープで長方形の花壇を囲むとき、面積がいちばん広くなるのは正方形(一辺 m)のときです。縦 m・横 m とすると で、公式4から 、つまり面積 です。和が決まっていれば積には上限があり、それは2つが等しいときに実現します。
正の数では相加平均が相乗平均以上であり、2つの数が等しいときにだけ一致するということです。
(1) のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
(2) , のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
【解答】
(1) , なので、相加平均と相乗平均の大小関係より
(証明終)等号は のとき、つまり で より のときです。
(2) 左辺を展開します。
なので、(1) と同じように です。よって左辺 です。(証明終)
等号は 、つまり のときに成り立ちます。
積 のように、2つの数をかけると文字が消える組を見つけるのが、相加平均と相乗平均を使うコツです。
相加平均と相乗平均の大小関係は、最小値を求めるときにも使えます。
, のとき
であり、等号は 、つまり のときに成り立つ。
したがって の最小値は である。最小値として答えるには、等号が実際に成り立つ があることを必ず確かめる。
不等式 は「 は より小さくならない」ことを示すだけです。本当に に届く があって初めて、 が最小値だといえます。
お店の広告の「最大 %オフ」は、「 %より大きな割引はない」という上限の約束です。けれども、実際に %引きになる商品が1つもなければ、「最大 %オフ」とは言えません。最小値や最大値も同じで、「その値より先へは行けない」ことと「その値にちゃんと届く」ことの両方がそろって、初めて答えになります。
相加平均と相乗平均で下からおさえた値は、等号が成り立つ場合があることを確かめて初めて最小値になるということです。
(1) のとき、 の最小値と、そのときの の値を求めなさい。
(2) のとき、 の最小値と、そのときの の値を求めなさい。
【解答】
(1) , なので
等号は 、つまり のときに成り立ちます。よって、 です。
(2) このままでは積 から文字が消えません。そこで のかたまりをつくります。
より なので
よって です。等号は 、つまり で より のときに成り立ちます。よって、 です。
第9章の例題5(1) では、次の等式を証明しました。
右辺の は 以上なので、ここから新しい不等式が生まれます。
実数 ,,, について
等号は のとき( のように、比がそろうとき)に成り立つ。
3組の場合も同様に が成り立つ。
3組の場合は、第9章の j13 で示した等式の右辺が2乗の和になっていることから分かります。この不等式は、 が決まっているときの の最大値・最小値を求めるのに役立ちます。
重い荷物を2人で押すとき、2人の力の向きがばらばらだと、力の一部が打ち消し合ってしまいます。いちばん効くのは、2人がそろって同じ向きに押したときです。コーシー・シュワルツの不等式の等号も「」、つまり2組の数の向きがそろったときに成り立ちます。
はいつでも 以上で、2組の数の比がそろうときにだけ等しくなるということです。
のとき、 の最大値と最小値を求めなさい。
【解答】
コーシー・シュワルツの不等式で , とすると
なので 、つまり
等号は のときに成り立ちます。 を に代入すると より です。
どちらの値にも実際に届くので、 です。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
差 ( より)
問2
不等式 を証明し、等号が成り立つときの の値を求めなさい。
差 。等号は のとき。
問3
のとき、不等式 を証明し、等号が成り立つときの の値を求めなさい。
相加平均と相乗平均より 。等号は より のとき。
問4
と の大小を比べ、不等号を使って表しなさい。
(2乗すると と 。 より)
問5
のとき、 の最小値を求めなさい。
(、等号は のとき)
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
, のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
差
差をとって因数分解します。
, より , なので、積は正です。よって です。(証明終)
問2 ★
のとき、不等式 が成り立つことを示しなさい。
差
通分して差をとります。
より分子は正、, より分母も正なので、差は正です。よって です。(証明終)
分数式の差では、分子と分母の符号を別々に調べます。
問3 ★
不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つときの , の値を求めなさい。
差 。等号は のとき。
差をとり、 と についてそれぞれ平方完成します。
よって です。(証明終)
等号は かつ 、つまり のときに成り立ちます。
問4 ★
不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
差 。等号は のとき。
差の を に分けて、平方の和をつくります。
よって です。(証明終)
等号は かつ 、つまり のときに成り立ちます。
問5 ★
, のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
2乗の差 。等号は のとき。
両辺は 以上なので、2乗の差を調べます。
両辺が 以上なので、 です。(証明終)
等号は 、つまり のときに成り立ちます。
問6 ★
, のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
左辺 。等号は のとき。
左辺を展開します。
, なので、相加平均と相乗平均の大小関係より
よって左辺 です。(証明終)
等号は 、つまり で、, より のときに成り立ちます。
問7 ★
のとき、 の最小値と、そのときの の値を求めなさい。
のとき最小値
, なので、相加平均と相乗平均の大小関係より
等号は 、つまり で、 より のときに成り立ちます。
よって、 です。
問8 ★
と の大小を比べ、不等号を使って表しなさい。
どちらも正なので、2乗して比べます。
なので、 です。両方とも正なので
和がどちらも になるので、比べるのは積の部分 と だけで済みます。
問9 ★★
不等式 が成り立つことを示しなさい。
右辺が負なら明らか。右辺 なら2乗の差 。
右辺 は負になることもあるので、場合を分けます。
(i) のとき、左辺 なので、不等式は成り立ちます。
(ii) のとき、両辺は 以上なので、2乗の差を調べます。
よって です。
(i),(ii) より、つねに が成り立ちます。(証明終)
2乗して比べる前に「両辺が 以上か」を確かめるのが、この問題の要です。
問10 ★★
のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つときの ,, の値を求めなさい。
。等号は のとき。
を使って、 と を比べます。
なので 、つまり です。(証明終)
等号は のときで、 とあわせて です。
これは例題2(2) の不等式 と同じ内容です。
問11 ★★
のとき、 の最小値と、そのときの の値を求めなさい。
のとき最小値
のかたまりをつくります。
なので、相加平均と相乗平均の大小関係より
よって です。等号は 、つまり で、 より 、 のときに成り立ちます。
よって、 です。
問12 ★★
のとき、 の最小値と、そのときの の値を求めなさい。
のとき最小値
分子を展開して、項ごとに分けます。
なので です。よって、与えられた式は 以上です。
等号は 、つまり のときに成り立ちます。
よって、 です。
(確かめ) のとき です。
問13 ★★
, のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
左辺 。等号は のとき。
左辺を展開します。
, なので
よって左辺 です。(証明終)
等号は 、つまり で、, より のときに成り立ちます。
問14 ★★
のとき、 の最大値と最小値を求めなさい。
最大値 (),最小値 ()
コーシー・シュワルツの不等式で とすると
なので 、つまり です。
等号は 、つまり のときです。 に代入して 、 です。
よって、 です。
問15 ★★
,, のとき、 の最大値と の最小値をそれぞれ求めなさい。
の最大値 , の最小値 (どちらも のとき)
相加平均と相乗平均の大小関係より
等号は のときで、 とあわせて です。よって の最大値は です。
次に、通分すると
なので で、等号は同じく のときです。よって最小値は です。
が最大のとき、その逆数は最小になります。
問16 ★★
, のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
差 。等号は のとき。
差をとり、 と見て でくくります。
, なので、差は 以上です。よって です。(証明終)
等号は 、つまり のときに成り立ちます。
は第8章の小話に出てきた調和平均です。公式4とあわせると、正の数 , について「調和平均 相乗平均 相加平均」が成り立ちます。
問17 ★★★
, のとき、 の最小値を求めなさい。
( のとき)
よくある誤り:, をかけて「 なので最小値 」とするのは誤りです。2つの等号は と のときで、同時には成り立たないため、 には届きません。
正しい解き方:展開してから、相加平均と相乗平均を1回だけ使います。
なので
よって与えられた式は 以上です。等号は 、つまり のとき(たとえば ,)に成り立ちます。
よって、最小値は です。
(確かめ), のとき です。
不等式を2回以上使うときは、等号が同時に成り立つかを確かめなければなりません。
問18 ★★★
,, のとき、 の最小値と、そのときの , の値を求めなさい。
のとき最小値
なので、式に をかけても値は変わりません。
, なので
よって です。
等号は 、つまり で、, より のときです。 とあわせて , です。
よって、 です。
(確かめ) です。
条件の式を「」の代わりにかけると、相加平均と相乗平均が使える形になります。
問19 ★★★
, のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
両辺正で、2乗の差 。等号は のとき。
両辺は正なので、2乗して比べます。
よって で、両辺が正なので です。(証明終)
等号は のときに成り立ちます。
右辺は二乗平均と呼ばれます。j16 とあわせて、正の数 , について
という4つの平均の大小がそろいました。どれも等号は のときです。
問20 ★★★
,, のとき、不等式 を証明しなさい。また、等号が成り立つのはどのようなときかを求めなさい。
など3つの両辺は正なので、かけ合わせて 。等号は のとき。
相加平均と相乗平均の大小関係より
3つの不等式の両辺はすべて正なので、辺ごとにかけ合わせることができます。
( なので です。)(証明終)
等号は3つの不等式の等号が同時に成り立つとき、つまり ,, のときなので、 のときです。
「, ならば 」は、両辺が正のときにだけ使えます。負の数が混じると、かけ合わせた不等式は成り立たないことがあります(例: と をかけると となり誤り)。
解説の図(公式4)では、長さ と の線分をつないだものを直径として半円をかき、つなぎ目から垂直に立てた線分の長さが になることを使いました。直径の両端と垂線の先端を結んでできる三角形は直角三角形で、垂線の長さを とすると、相似な2つの三角形から 、つまり となるからです。
一方、半径は です。垂線は半円の中に収まっているので、いちばん高い半径より長くはなれません。こうして「相加平均 相乗平均」が、式を使わずに一目で分かります。垂線が半径と重なるのは、つなぎ目がちょうど中心に来たとき、つまり のときだけです。
を満たす を と の比例中項といいます。比例中項を定規とコンパスで作図する方法は、ユークリッドの『原論』第6巻命題13にすでに書かれています。
豆知識
4世紀のアレクサンドリアの数学者パップスは、『数学集成』の中で、1つの半円の図の中に相加平均・相乗平均・調和平均の3つを同時に作図してみせました。中心と垂線の先端を結ぶ半径を引き、つなぎ目からその半径へ垂線を下ろすと、垂線の先端から足までの長さが調和平均 になり、3つの長さの大小が図の中で見比べられます(作図の細部は※諸説あり)。
古代ギリシャのピタゴラス学派は、弦の長さの比と音の響きの関係を調べていました。弦の長さを半分にすると、1オクターブ高い音が出ます。
前4世紀のアルキタスの書いたものとして伝わる断片には、3種類の平均――相加平均・相乗平均・調和平均――が音楽の話として並べられています(※諸説あり)。たとえば長さ と の弦を考えると
です。長さの比 は完全4度、 は完全5度、 はオクターブと呼ばれ、どれもよく響き合う音の組です。2つの平均が、そのままきれいな和音をつくる長さになっているのです。
豆知識
「調和平均」という名前は、この音楽の「調和(ハーモニー)」から来ているといわれます。j16 と j19 で見たように、正の数では「調和平均 相乗平均 相加平均」が成り立ち、 と でも ()となっています。
ある株が、1年目に %値上がりし、2年目に %値下がりしたとします。増減率を平均すると %なので、元の値段に戻ったように思えます。
ところが実際は、 万円が1年目に 万円、2年目にその半分の 万円になり、 万円も減っています。倍率で考えると 倍です。
毎年同じ倍率で変化したとみなす「1年あたりの倍率」は、2つの倍率の相乗平均 です。つまり、実質は毎年約 %ずつ減っていたのと同じです。倍率の平均は相乗平均で考える必要があり、相加平均( 倍)は相乗平均(約 倍)以上になるので、ふつうの平均で考えると成績を実際よりよく見積もってしまいます。
豆知識
1年目に 倍( %)、2年目に半分( %)になると、 でちょうど元に戻ります。増減率の相加平均は %ですが、倍率の相乗平均は 倍、つまり %です。値下がりを取り戻すには、下がった率より大きな値上がりが必要になるのです。
※ここは発展ページです。本文では、2つの数についての相加平均と相乗平均の大小関係と、2組・3組の数についてのコーシー・シュワルツの不等式を扱いました。ここでは、これらを 個の数に広げて証明します。途中で使う和の記号 は、数列の分野で正式に学ぶものです。ここでは「 をまとめて書く記号」とだけ思ってください。
本文の等号の条件は、すべて次の性質にもとづいています。
実数 ,,, について
であり、等号が成り立つのは のときに限る。
証明 第4章の厳密定義で示したように、 ならば であり、 ならば である。よって各項は 以上で、和も 以上である。
もし となる が1つでもあれば、 で、ほかの項は 以上だから、和は正になる。したがって和が になるのは、すべての が のときに限る。(証明終)
個の正の数の相乗平均は「 個かけて 乗根をとったもの」ですが、 乗根は指数・対数の分野で学びます。そこで、 乗根を使わない形で述べます。
正の数 ,,, について、 とおくと
が成り立つ。
のときは で、本文の公式4の両辺を2乗した形です。一般の の証明は、コーシーによる巧妙な2段構えで行います。
証明 記号を簡単にするため、「 個の正の数について定理2が成り立つ」ことを と書く。また、 ならば であること(第4章の不等式の性質から、両辺が正の不等式はかけ合わせられる)を使う。
第1段(2倍にする) は成り立つ。 だからである。
次に、 が成り立つとして を示す。 個の正の数を前半 個と後半 個に分け、それぞれの相加平均を , とする。全体の相加平均は である。 と より
となり、 が成り立つ。これをくり返すと、,,, と、 の累乗個のときはすべて成り立つ。
第2段(1つ減らす) が成り立つとして、 を示す。 個の正の数 ,, の相加平均を とし、 個目として を付け加える。すると 個の和は で、 個の相加平均もちょうど になる。 より
両辺を正の数 で割ると となり、 が成り立つ。
どんな に対しても、 以上の の累乗 がある。第1段で が成り立ち、第2段を 回くり返せば にたどり着く。(証明終)
「まず飛び飛びの値で示し、あいだを後ろ向きに埋める」という進め方は、数学的帰納法(数列の分野)の変わった使い方として知られています。等号が成り立つのは、 のときに限ることも、同じ筋道で確かめられます。
第9章の例題5(1) と j13 の等式は、 組の場合に広げることができます。
実数 ,,,,, について
右辺は、 となるすべての組 についての和である。
証明 左辺の第1項を展開すると、 という形の項が、, を から まで動かしたすべての組について現れる。第2項を展開すると、 という形の項が同じくすべての組について現れる。
の項は、どちらも で打ち消し合う。 の項は、 の組 と、それを入れかえた をまとめると
となる。これをすべての について加えたものが右辺である。(証明終)
のとき右辺は の1項だけで、第9章の例題5(1) の等式になります。 のときは3項で、第9章の j13 になります。右辺は2乗の和なので、定理1から次の不等式が分かります。
等号が成り立つのは、すべての , について となるとき、つまり と の比がそろうとき(どちらかがすべて の場合を含む)に限る。
ベクトルの分野では、左辺の はベクトルの「長さ」、 は「内積」と呼ばれるものになります。定理4は「内積の大きさは長さの積を超えない」という意味をもち、等号の条件「比がそろう」は「2つのベクトルが同じ直線上にある」ことにあたります。解説で「2人がそろって同じ向きに押すときがいちばん効く」と例えたのは、このことです。
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