この章では、$\dfrac{1}{x}$ や $\dfrac{x+1}{x^2-4}$ のように分母に文字を含む「分数式」を学びます。やることは小学校で習った分数の計算とほとんど同じで、約分・かけ算とわり算・通分によるたし算とひき算の順に進みます。そのうえで、第7章の整式の除法を使って分子の次数を下げる方法、1つの分数式を簡単な分数式の差に分ける「部分分数分解」、分数の中に分数がある「繁分数式」、そして $x + \dfrac{1}{x}$ の値から式の値を求める工夫まで扱います。どの計算でも、第2章の因数分解が主役になります。
分数式と約分
第7章の最後の問題で、x2 のように分母に文字がある式が少しだけ登場しました。この章では、こうした式を正面から扱います。
数の分数 86=43 と同じです。約分するには、分子と分母を因数分解して、共通な因数を見つけます。
x2+3x+2x2−1=(x+1)(x+2)(x−1)(x+1)=x+2x−1
気をつけたいのは、約分できるのはかけ算でくっついた因数だけだということです。x+3x+2 の x を上下で消して 32 とするのは誤りです。x=1 を入れると、もとの式は 43 なのに 32 にはなりません。
また、分数式では分母が 0 になる値は考えません。上の例では、もとの式にも約分した式にも x=−1,x=−2 は代入できないものとして扱います。
ジュースの素(濃縮液)と水を 2:6 で混ぜても 1:3 で混ぜても、同じ濃さのジュースになります。両方を同じ割合で増やしたり減らしたりしても、濃さ(比の値)は変わりません。約分も、分子と分母を同じもので割って、値を変えずに式を小さくする作業です。
分数式は分子と分母を因数分解し、共通な因数だけを消せば約分できるということです。
例題1:約分
次の分数式を約分した式を求めなさい。
(1) 9a3b6a2b3
(2) x2+x−6x2−4
(3) x2+x−2x3−1
【解答】
(1) 数の部分は 6 と 9 の最大公約数 3 で、文字の部分は a2 と b で割ります。
9a3b6a2b3=3a2b2(2) 分子と分母を因数分解します。
x2+x−6x2−4=(x−2)(x+3)(x−2)(x+2)=x+3x+2(3) 分子は第2章の a3−b3 の公式で因数分解できます。
x2+x−2x3−1=(x−1)(x+2)(x−1)(x2+x+1)=x+2x2+x+1
分数式の乗法・除法
計算の順序は、先に因数分解してから約分し、残ったものをかけるのが基本です。先に展開してしまうと、共通な因数が見えなくなります。
わり算がなぜ逆数のかけ算になるのかは、数で考えると分かります。3 L の水を 21 L のペットボトルに分けると、6 本になります。21 L のボトル2本で 1 L なので、3 L なら 3×2=6 本です。「21 で割る」ことは「2 をかける」ことと同じです。
分数式のかけ算は因数分解してから約分し、わり算は逆数にしてかけ算に直せばよいということです。
例題2:乗法・除法
次の式を計算した結果を求めなさい。
(1) x2+2xx2−9×x−3x
(2) x2−1x2−x−2÷x2+xx−2
【解答】
(1) 因数分解してから約分します。
x2+2xx2−9×x−3x=x(x+2)(x−3)(x+3)×x−3x=x+2x+3(2) 割る式を逆数にして、かけ算に直します。
x2−1x2−x−2÷x2+xx−2=(x−1)(x+1)(x−2)(x+1)×x−2x(x+1)=x−1x(x+1)答えの分母・分子は、展開せずに因数分解した形のままにしておくのがふつうです。
分数式の加法・減法
通分するときは、各分母を因数分解し、すべての因数を過不足なく含む式を共通の分母にします。数でいえば、41+61 を分母 24 ではなく最小公倍数 12 にそろえるのと同じです。そろえたあと、分子を整理して、約分できるかどうかを最後に確かめます。
4等分のケーキと6等分のケーキを1切れずつ食べたとき、合わせてどれだけ食べたかは、切り方がちがうままでは比べられません。両方を12等分に切り直すと、3 切れと 2 切れで合わせて 5 切れ、つまり 125 だと分かります。通分は、この「同じ大きさのピースに切り直す」作業です。
分母が異なる分数式は、分母を因数分解して共通の分母にそろえてから分子をたし引きし、最後に約分を確かめるということです。
例題3:加法・減法
次の式を計算した結果を求めなさい。
(1) x−11+x+22
(2) x−11−x2−12
(3) x2−1x−x2+x1
【解答】
(1) 共通の分母は (x−1)(x+2) です。
x−11+x+22=(x−1)(x+2)(x+2)+2(x−1)=(x−1)(x+2)3x(2) x2−1=(x−1)(x+1) なので、共通の分母は (x−1)(x+1) です。
x−11−(x−1)(x+1)2=(x−1)(x+1)(x+1)−2=(x−1)(x+1)x−1=x+11最後に約分できました。計算のあとで約分を確かめる習慣をつけましょう。
(3) x2−1=(x−1)(x+1),x2+x=x(x+1) なので、共通の分母は x(x−1)(x+1) です。
(x−1)(x+1)x−x(x+1)1=x(x−1)(x+1)x⋅x−(x−1)=x(x−1)(x+1)x2−x+1分子の x2−x+1 は、分母の因数 x,x−1,x+1 のどれでも割り切れないので、これ以上約分できません。
分子の次数を下げる
第7章の整式の除法をそのまま使います。数の分数でいえば、仮分数 37 を帯分数 231=2+31 に直すことにあたります。
150 分は「2 時間 30 分」と言いかえられます。60 分のかたまりをできるだけ取り出して、残りの 30 分を端数として添える言い方です。分子の次数下げも、分母で割り切れる部分(商 Q)を取り出し、割り切れない端数(BR)だけを分数式として残します。
この形にしておくと、分子が簡単になるので、たし算・ひき算が楽になることがあります。
分子の次数が高い分数式は、分子を分母で割って「商 + 余り/分母」の形にすると、扱いやすくなるということです。
例題4:分子の次数を下げる
(1) x+1x2+3x+5 を「整式 + 分子の次数が分母より低い分数式」の形に表しなさい。
(2) x+1x+3−x+2x+4 を計算した結果を求めなさい。
【解答】
(1) 分子を x+1 で割ります。
x2+3x+5=x(x+1)+(2x+5)2x+5=2(x+1)+3よって x2+3x+5=(x+1)(x+2)+3 なので
x+1x2+3x+5=x+2+x+13(2) それぞれの分子の次数を下げます。x+3=(x+1)+2,x+4=(x+2)+2 なので
x+1x+3−x+2x+4=(1+x+12)−(1+x+22)=x+12−x+22=(x+1)(x+2)2(x+2)−2(x+1)=(x+1)(x+2)2そのまま通分すると分子に x2 の項が出てきますが、先に次数を下げたので 1 どうしが打ち消し合い、計算が短くなりました。
部分分数分解
通分とは逆に、1つの分数式をいくつかの簡単な分数式の和や差に分けることを考えます。
右辺を通分すれば、左辺に戻ることが確かめられます。
x+a1−x+b1=(x+a)(x+b)(x+b)−(x+a)=(x+a)(x+b)b−a
分子に b−a が出てくるので、その分を b−a1 で割って調整しているわけです。
ハンバーガーとポテトのセットメニューは、単品に分けて考えると値段の比べ方が見えやすくなります。部分分数分解も、「かけ算でまとまった分母」を「単品の分母」に分ける作業です。分けておくと、次の例題のように、たくさんの分数式の和でとなりどうしが打ち消し合い、最初と最後だけが残ることがあります。
分母が2つの1次式の積になった分数式は、2つの分数式の差に分けられ、和を求めるときにとなりどうしが打ち消し合うということです。
例題5:部分分数分解
(1) x(x+2)1 を部分分数に分解した式を求めなさい。
(2) (x+1)(x+2)1+(x+2)(x+3)1+(x+3)(x+4)1 を計算した結果を求めなさい。
【解答】
(1) 公式5で a=0,b=2 とすると b−a=2 なので
x(x+2)1=21(x1−x+21)(2) 各項は分母の2つの因数の差が 1 なので、そのまま差に分けられます。
(x+11−x+21)+(x+21−x+31)+(x+31−x+41)=x+11−x+41=(x+1)(x+4)(x+4)−(x+1)=(x+1)(x+4)3x+21 と x+31 が打ち消し合い、最初と最後の項だけが残りました。
繁分数式
たとえば 1+x11−x1 なら、分子と分母に x をかけると、中の分母がすべて消えて x+1x−1 になります。かける式は、中に出てくる分母をすべて含むものを選びます。
繁分数は、速さの計算で自然に現れます。21 km の道のりを 61 時間(10 分)で歩いたときの時速は
61 21 =21÷61=21×6=3 (km/時)
です。「道のり ÷ 時間」をそのまま分数で書くと、分数の中に分数が入った形になります。
分数の中に分数がある式は、中の分母をまとめて払うか、わり算に直せば、ふつうの分数式になるということです。
例題6:繁分数式
次の式を簡単にした式を求めなさい。
(1) 1−x211−x1
(2) 1−1−x11
【解答】
(1) 中の分母 x,x2 をまとめて払うため、分子と分母に x2 をかけます。
1−x211−x1=x2−1x2−x=(x−1)(x+1)x(x−1)=x+1x(2) 内側から順に計算します。まず分母の部分は
1−1−x1=1−x(1−x)−1=1−x−xです。その逆数をとって
1−1−x11=−x1−x=xx−1段が深い繁分数式は、いちばん内側から1段ずつ片づけると迷いません。
x+x1 の値と式の値
第3章では、x+y と xy の値から x2+y2 などの対称式の値を求めました。y の代わりに x1 を考えると、x⋅x1=1 という便利な性質が使えます。
1つめは (x+x1)2=x2+2⋅x⋅x1+x21=x2+2+x21 から、2つめは第1章の (a+b)3 の展開から導けます。どちらも、x と x1 の積が 1 になるので、途中の項が数だけになります。
コピー機で x 倍に拡大したあと x1 倍に縮小すると、元の大きさに戻ります。x と x1 は、かけると必ず 1 になる「行きと帰り」のペアです。この性質のおかげで、x そのものの値を求めなくても、和 x+x1 だけからいろいろな式の値が決まります。
x と x1 の積は 1 なので、和 x+x1 が分かれば、x2+x21 や x3+x31 の値も決まるということです。
例題7:x + 1/x の値から式の値を求める
x+x1=3 のとき、次の式の値を求めなさい。
(1) x2+x21
(2) x3+x31
【解答】
(1)
x2+x21=(x+x1)2−2=32−2=7(2)
x3+x31=(x+x1)3−3(x+x1)=27−9=18x の値は 23±5 ですが、それを代入しなくても答えが出ました。
分数の横棒はいつから?
私たちは 43 のように、分子と分母を横棒で区切って書きます。けれども、この書き方が最初からあったわけではありません。
分子を上に、分母を下に縦に並べる書き方は、古代インドの数学で使われていました。ただし、そこには横棒がありませんでした。間に横棒を引くようになったのは、12世紀ごろのアラビア語圏の数学者、アル・ハッサールの著作からだといわれています(※諸説あり)。
この書き方をヨーロッパに広めたのが、イタリアのフィボナッチです。彼の『算盤の書』(1202年)では、横棒のある分数がたくさん使われています。一方、3/4 のような斜めの線は、ずっと後の時代に、1行の中に分数を収めたい印刷の都合から広まったと考えられています(※諸説あり)。
豆知識
わり算の記号 ÷ は、スイスのヨハン・ラーンが1659年に出した代数の本で使ったのが始まりとされます。÷ の形は「横棒の上下に点がある」、つまり分数 ∙∙ をかたどったものだという説もあります(※諸説あり)。なお、国際的な規格では ÷ の使用は勧められておらず、わり算は分数や / で書くのがふつうです。
往復の平均の速さは50 km/時ではない
車で行きは時速 60 km、帰りは時速 40 km で同じ道を往復しました。往復の平均の速さはいくらでしょうか。60 と 40 の平均で時速 50 km、と答えたくなりますが、正しくはありません。
片道の道のりを d km とすると、かかる時間は行き 60d 時間、帰り 40d 時間です。平均の速さは「全体の道のり ÷ 全体の時間」なので
60d+40d2d=601+4012=60+402⋅60⋅40=48となり、時速 48 km です。遅い帰り道のほうが長い時間走っているので、平均は 40 寄りになります。この章の繁分数式そのものです。
一般に、速さ a と b で同じ道のりを進んだときの平均の速さは a1+b12=a+b2ab で、これを a と b の調和平均といいます。
豆知識
電気の抵抗を並列につなぐと、全体の抵抗 R は R1=R11+R21 で決まります。これを解くと R=R1+R2R1R2 です。6 Ω と 3 Ω を並列にすると 918=2 Ω となり、どちらの抵抗よりも小さくなります。
古代エジプトの分数は「1つだけ」
古代エジプトでは、分数を主に分子が 1 の分数(単位分数)の和で表していました。32 などの一部の分数には専用の記号がありましたが、それ以外は 21,31,41,…… を組み合わせて書いたのです。
紀元前1650年ごろに書記アーメスが書き写したリンド・パピルスには、n2(n は 5 から 101 までの奇数)を単位分数の和に分けた表が載っています。たとえば
52=31+151,72=41+281のようにです。同じ単位分数を2回使わないのが決まりでした。
パンを5人で2個分け合うとき、「1人 31 個ずつ配り、残りを 151 個ずつ配る」と考えると、実際に切り分けるときの手順がそのまま見えるという利点がありました。
豆知識
この章の部分分数分解を使うと、単位分数はいつでも2つの単位分数の和に分けられます。n1−n+11=n(n+1)1 を移項すると
n1=n+11+n(n+1)1たとえば 31=41+121 です。フィボナッチは『算盤の書』で、どんな分数も異なる単位分数の和で表せる方法を示しています。
※ここは発展ページです。本文では、分数式を「数の分数と同じように計算できるもの」として扱いました。ここでは、分数式とは何か、2つの分数式が「等しい」とはどういうことかを定め、約分や通分をしても答えが変わらないことを確かめます。最後に、部分分数分解がいつでもただ1通りにできることを示します。
分数式の定義と相等
定義1:分数式とその相等
A,B を係数が実数の整式とし、B は零多項式でないとする。A と B の組を BA と書き、分数式という。
2つの分数式 BA,DC は
AD=BC(整式として等しい)のとき、等しいと定め、BA=DC と書く。
「整式として等しい」とは、第1章の厳密定義のとおり、同じ次数の項の係数がすべて等しいことです。この定義では、BA を「A を B で割った値」としてではなく、整式の組として扱っています。こうしておくと、x にどんな数を入れるかを考えずに、式どうしの計算として話を進められます。
本文の公式1(約分)は、この定義からすぐに出てきます。
定理1:約分と倍分
C が零多項式でないとき
BA=BCAC証明 定義1より、A⋅BC=B⋅AC を示せばよい。整式のかけ算は交換法則・結合法則を満たすので、両辺はどちらも ABC に等しい。(証明終)
右から左へ読むと約分、左から右へ読むと通分のときの「分子と分母に同じ式をかける」操作(倍分)です。
計算の結果は表し方によらない
分数式の和と積を、数の分数と同じように
BA+DC=BDAD+BC,BA×DC=BDAC
と定めます。ここで気になるのは、x−1x2−1 と 1x+1 のように、等しい分数式にはいろいろな書き方があることです。どの書き方で計算しても同じ答えになる、ということを確かめておかなければなりません。
定理2:和は表し方によらない
BA=B′A′ ならば
BA+DC=B′A′+DC証明 仮定より AB′=A′B である。左辺は BDAD+BC、右辺は B′DA′D+B′C なので、定義1より
(AD+BC)⋅B′D=BD⋅(A′D+B′C)を示せばよい。両辺を展開すると
(左辺)=AB′D2+BB′CD(右辺)=A′BD2+BB′CDAB′=A′B より、両辺は等しい。(証明終)
積についても、同じように AB′=A′B から AC⋅B′D=BD⋅A′C が確かめられます。こうして、分数式どうしの四則演算(0 でない式で割ることも含む)が、書き方によらずに定まります。整式に分数式を加えた「有理式」の世界は、有理数の世界と同じように、四則演算で閉じているのです。
なお、分数式として等しいことと、関数として等しいことは少しちがいます。x−1x2−1 と x+1 は分数式としては等しいのですが、x=1 を代入できるのは x+1 のほうだけです。本文で「分母が 0 になる値は考えない」と断ったのはこのためです。
部分分数分解の存在と一意性
定理3:部分分数分解
a,b を異なる実数とし、p,q を実数とする。このとき
(x−a)(x−b)px+q=x−aα+x−bβを満たす実数 α,β がただ1組存在する。それは
α=a−bpa+q,β=b−apb+qである。
証明 右辺を通分すると (x−a)(x−b)α(x−b)+β(x−a) なので、定義1より、等式は
px+q=(α+β)x−(αb+βa)が整式として成り立つことと同じである。係数を比べると
α+β=p,αb+βa=−q1つめの式から β=p−α を2つめに代入すると αb+(p−α)a=−q、つまり α(b−a)=−(pa+q) である。a=b より b−a=0 で割れて
α=a−bpa+q,β=p−α=b−apb+qとただ1通りに決まる。逆にこの α,β は2つの式を満たす。(証明終)
本文の公式5は、p=0,q=1 で、a,b をそれぞれ −a,−b にかえた場合です。このとき α=b−a1,β=−b−a1 となり、公式5と一致します。
証明の途中で「係数を比べる」という方法を使いました。これは、第9章の恒等式で「係数比較法」として正式に学ぶ考え方です。
分母が (x−a)2 のように同じ因数を重ねてもつ場合や、x2+1 のように実数の範囲で1次式に分けられない因数をもつ場合にも、形を少し変えた部分分数分解ができます。これは数学IIIの積分で活躍します。