問1
方程式 の解を求めなさい。
答えを見る答えを閉じる
()
目次 / いろいろな関数 / 数学III
—— グラフで見通しを立て、分母に気をつけて式で解く ——
第1章では、分数関数のグラフを漸近線の十字から描きました。この章では、そのグラフを使って $\dfrac{2}{x - 1} = x$ や $\dfrac{2}{x - 1} > x$ のような**分数方程式・分数不等式**を解きます。手順はいつも同じで、「グラフで解の見通しを立てる → 式で解く → 分母が $0$ にならないか、変形で解が増えたり減ったりしていないかを確かめる」の 3 段です。分母を払うときの落とし穴、符号の分からない式を掛けるときの注意、そして直線を動かして共有点の個数を調べる方法まで扱います。
のように、分母に を含む方程式を分数方程式といいます。解き方の基本は、両辺に分母を掛けて分母を消し(「分母を払う」といいます)、ふつうの整式の方程式にすることです。
ただし、ここで 1 つ気をつけることがあります。もとの方程式では を代入できません(分母が になる)。ところが、分母を払ったあとの式 には、そんな制限がありません。つまり分母を払うと、もとの方程式にとっては「立ち入り禁止」だった まで、解の候補に入ってくることがあります。
たとえば で分母を払うと ,すなわち となり、 が出てきます。しかし はもとの式の分母を にするので、解ではありません。この方程式は解なしです。このように、式を変形する途中で紛れこむ、もとの方程式を満たさない解を無縁解(むえんかい)といいます。
手順 3 の「除く」を忘れないために、手順 1 を最初にやっておくのがコツです。分母が と のように複数あるときは、全部をまとめて払える を掛けます。
採用試験を思い浮かべてください。書類選考では、応募者全員の書類を同じ形式にそろえて(分母を払って)比べます。けれども、選考を通った人がいても、最後に「そもそも応募資格(分母が でない)を満たしているか」を確かめなければ採用はできません。資格の条件を最初に書き出しておけば、最後の確認で見落としません。
分数方程式は、分母を払って整式の方程式にして解き、最後に「分母を にする解」を除けばよいということです。
次の方程式の解を求めなさい。
(1)
(2)
【解答】
(1) 分母が にならないのは のとき。両辺に を掛けると
はどちらも を満たすので
(2) なので、分母が にならないのは かつ のとき。両辺に を掛けると
のうち、 は分母を にするので除きます。よって
確かめ: のとき、左辺 ,右辺 で一致します。
方程式 の実数解は、2 つのグラフ と の共有点の 座標です。二次関数の分野で、二次方程式の解を放物線と 軸の共有点として見たのと同じ考え方です。
例題1(1) の なら、第1章で描いた (漸近線 ,)と、直線 の交わり方を見ます。図のとおり、2 つのグラフは と の 2 か所で交わっていて、例題1(1) の答えと合っています。
方程式 の実数解は、 と のグラフの共有点の 座標である。とくに、共有点の個数と実数解の個数は等しい。
グラフを描いておくと、式で解く前に「解はいくつあるか」「だいたいどのあたりか」が分かります。式で解いた答えがグラフの見通しと食い違ったら、どこかで計算を間違えている合図です。
2 本の鉄道路線を地図に描くと、乗りかえができる駅は、線路と線路が交わるところにしかありません。「2 路線が交わる駅を全部挙げなさい」という問いは、地図の上で交点を探す問いです。分数方程式も、曲線と直線という 2 本の路線の「乗りかえ駅」を探していると考えられます。ただし、分数関数の路線は漸近線のところで途切れているので、そこに駅はありません。
分数方程式を解くことは、分数関数のグラフともう 1 つのグラフとの交点を探すことで、解の個数は交点の個数と同じだということです。
関数 のグラフについて
(1) 直線 との共有点の座標を求めなさい。
(2) 直線 との共有点があるかどうかを調べ、あればその座標を求めなさい。
【解答】
(1) 例題1(1) より、共有点の 座標は 。 なので
(2) とします()。両辺に を掛けると
なので、これを満たす実数 はありません。よって
直線 は、漸近線の交点 を通る右下がりの直線です。 の曲線は十字の右上と左下にあるので、十字の左上と右下へ抜けていくこの直線とは出会いません。
のように、分母に を含む不等式を分数不等式といいます。グラフで考えると、この不等式の解は「曲線 が直線 より上にある の範囲」です。
図1で読みとってみます。曲線と直線の上下が入れかわる候補は、交点の と、曲線が途切れる漸近線の の 3 か所です。この 3 つで数直線を 4 つの範囲に分けて、それぞれで上下を見ます。
| の範囲 | ||||
|---|---|---|---|---|
| 曲線と直線 | 曲線が上 | 直線が上 | 曲線が上 | 直線が上 |
たとえば では、曲線上は 、直線上は なので直線が上です。こうして解は と分かります(図1の緑の太線)。
不等式 の解は、 のグラフが のグラフより上にある の範囲である。分数関数では、上下が入れかわりうるのは
だけなので、これらの で区切った範囲ごとに上下を調べればよい。漸近線の は、解に含まれることはない。
「」の不等式なら共有点の も解に入りますが、漸近線の はいつでも除きます。その では、そもそも分数関数の値がないからです。
マラソンで 2 人の選手の順位が入れかわるのは、並んだ瞬間か、コースがトンネルに入って見えなくなったあとです。沿道から見ている限り、並ぶこともトンネルもない区間では、前を走る人はずっと前にいます。分数不等式の上下も、交点(並んだ瞬間)と漸近線(トンネル)のところでしか入れかわりません。だから、区切った範囲の中で 1 か所だけ調べれば、その範囲全体の上下が分かります。
分数不等式は、共有点と漸近線で数直線を区切り、範囲ごとに曲線が上か下かを読めば解けるということです。
図1を使って、次の不等式の解を求めなさい。
(1)
(2)
【解答】
共有点の 座標は (例題2)、漸近線は です。
(1) 曲線が直線より上にあるのは と の範囲なので
(2) 曲線が直線より下にあるか、共有点になる範囲です。共有点の は含み、漸近線の は含みません。
(1) と (2) の解を合わせると、 を除く実数全体になります。 はどちらの不等式でも考えられない値です。
グラフで見通しが立ったら、式でも解けるようにしておきます。まず、やってはいけない解き方から見ましょう。
の両辺に を掛けて とすると、 より になってしまいます。これは例題3の答えと違います。不等式の両辺に負の数を掛けると不等号の向きが変わるのに、 の符号を確かめずに掛けたのが原因です(第1章 実践 j17 で予告した注意です)。
正しく解く方法は 2 つあります。
方法1(場合分け) と に分けて掛けます。
方法2(分母の 2 乗を掛ける) は でいつも正なので、向きを気にせず掛けられます。
右辺へまとめて でくくると
3 つの 1 次式の積の符号は、それぞれの符号を表にすると分かります。
| 積 |
積が負になるのは で、グラフで読んだ答えと一致します。
の「」のほうに「かつ 」がついているのは、 には の場合も入ってしまうからです。等号つきの不等式では、分子が になる は解に含め、分母が になる は除きます。
符号の表は、どの因数も「 が大きいほうでは 」なので、いちばん右の範囲の積は必ず です。同じ因数が重ならなければ、区切りの を 1 つ左へまたぐたびに、符号が と で交互に入れかわります。
分数不等式を式で解くときは、1 つの分数にまとめて を に言いかえ、1 次式の積の符号を表で調べればよいということです。
次の不等式の解を求めなさい。
(1)
(2)
【解答】
(1) 上の方法2のとおり、両辺に を掛けて整理すると
符号の表より
(2) 右辺を移項して通分します。
両辺に を掛けて(向きが変わる)。公式4 より
は で、ここから を除いて
では左辺 となって等号が成り立つので含み、 は分母が なので含みません。
最後に、文字 を含む方程式の実数解の個数を調べます。 の実数解の個数は、曲線 と直線 の共有点の個数です。 を変えると、直線は傾き のまま上下に平行移動します。
図のように、直線を下から上へずらしていくと、共有点は 2 個 → 1 個(接する)→ 0 個 → 1 個(接する)→ 2 個と変わります。境目の「接する」ときの は、分母を払った 2 次方程式の判別式で求められます。
のグラフと直線 ()の共有点の個数は、分母を払った 2 次方程式
の実数解の個数に等しい。この 2 次方程式は を解にもたない(代入すると左辺 ,右辺 )ので、判別式 について
公式1では「分母を にする解を除く」必要がありましたが、 の形の曲線と直線なら、分母を払った方程式が を解にもつことはありません。だから判別式だけで個数が決まります(ここでは、曲線の式の と区別するため、曲線の係数を と書きました)。
机の上の曲線に、定規を当てて平行にすべらせる場面を想像してください。定規が曲線を 2 か所で横切っていたのが、ある位置でかすめるように 1 点で触れ、そこを越えると離れます。この「かすめる瞬間」を判別式 がとらえます。
文字を含む方程式の解の個数は、グラフと動く直線の共有点の個数として数え、接する境目を判別式 で求めればよいということです。
を定数とします。方程式 の異なる実数解の個数を、 の値によって場合分けして求めなさい。
【解答】
として両辺に を掛けると
を の左辺に代入すると なので、 は を解にもちません。よって、もとの方程式の実数解の個数は の実数解の個数に等しくなります。 の判別式を とすると
のとき は で接点は 、 のとき は で接点は です。2 つの接点は、漸近線の交点 について対称な位置にあります(第1章 公式5)。
| 段 | やること | 気をつけること |
|---|---|---|
| 見通し | グラフを描き、共有点と漸近線を見る | 上下が入れかわるのは共有点と漸近線だけ |
| 式で解く | 方程式は分母を払う。不等式は にまとめて の符号を調べる | 符号の分からない式をそのまま掛けない |
| 確認 | 分母を にする を除く。等号つきなら分子 の を含める | 見通しと答えが合っているか |
次の第3章では、 のような根号を含む関数(無理関数)のグラフを、この分野の「基本形 → 平行移動」の手順で描きます。第4章では、そのグラフを使って無理方程式・無理不等式を解き、この章と同じ 3 段の手順をくり返します。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
方程式 の解を求めなさい。
()
問2
方程式 の解を求めなさい。
( より。 を満たす)
問3
不等式 の解を求めなさい。
( と同じ)
問4
方程式 の解を求めなさい。
(分母を払うと で だが、分母を にするので除く)
問5
のグラフと直線 の共有点の座標を求めなさい。
()
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
方程式 の解を求めなさい。
分母が にならないのは のとき。両辺に を掛けて
はどちらも を満たすので
グラフで見ると、 と直線 の共有点 , の 座標です。
問2 ★
方程式 の解を求めなさい。
として、両辺に を掛けると
は を満たすので
確かめ: です。
問3 ★
方程式 の解を求めなさい。
として、両辺に を掛けると
整理して ,すなわち 。 より 。
どちらも を満たすので
確かめ: のとき です。
問4 ★
方程式 の解を求めなさい。
なので、 として両辺に を掛けます。
のうち、 は分母を にするので除きます(無縁解)。よって
確かめ: のとき 左辺 ,右辺 。
問5 ★
関数 のグラフと直線 の共有点の座標を求めなさい。
()の両辺に を掛けて
どちらも を満たします。 に代入して
問6 ★
不等式 の解を求めなさい。
移項して通分すると
公式4 より かつ 。 は なので、 を除いて
では分子が で等号が成り立つので含みます。
問7 ★
のグラフと直線 の上下を考えて、不等式 の解を求めなさい。
共有点は より ,。漸近線は 。 で区切って上下を調べます。
「」なので共有点の は含み、 は含みません。
式では、 より かつ として同じ答えが出ます。
問8 ★
方程式 の解を求めなさい。
として、両辺に を掛けると
解の公式より 。どちらも ではないので
問9 ★★
不等式 の解を求めなさい。
移項して通分すると
公式4 より 。符号の表をつくると
| 積 | |
|---|---|
よって
グラフで見ると、 と の共有点は 、漸近線は で、直線が曲線より上にある範囲です。
問10 ★★
不等式 の解を求めなさい。
移項して通分すると
公式4 より かつ 。積の符号は右から なので
ここから を除いて
問11 ★★
不等式 の解を、 と に場合分けして両辺に を掛ける方法で求めなさい。
合わせて
場合分けせずに を掛けて「」とすると、 の解(たとえば で )を落とします。 では が負なので、 より小さいのは当然です。
問12 ★★
を定数とします。方程式 が正の解をもつような の値の範囲を求めなさい。
として両辺に を掛けると ,すなわち 。
これがもとの方程式の解であるためには ,すなわち が必要です。実際 のとき、もとの方程式は となり、 で左辺はつねに なので解がありません。
さらに解が正なので ,。合わせて
問13 ★★
のグラフと直線 が接するような定数 の値と、そのときの接点の座標を求めなさい。
のとき接点 , のとき接点
()の両辺に を掛けて
は の解ではないので、接するのは が重解をもつときです。 より 。
重解は です。 のとき ,。 のとき ,。
2 つの接点は原点について対称です。
問14 ★★
不等式 の解を求めなさい。
移項して通分すると
両辺に を掛けて かつ 。
積の符号は右から なので 。 を除いて
確かめ: では で成り立ち、 では で成り立ちません。
問15 ★★
濃度 の食塩水 g に食塩を g 加えて溶かし、濃度を 以上にしたいとします。 の値の範囲を求めなさい。
( g 以上)
はじめの食塩は g。 g 加えると、食塩は g、食塩水は g なので、濃度の条件は
なので、両辺に を掛けても向きは変わりません。
よって ( g 以上)。
濃度 は、漸近線 に下から近づく分数関数です。食塩をどれだけ加えても(溶けるとしても)濃度が に届かないことが、式からも分かります。
問16 ★★
がどんな実数であっても、方程式 は異なる 2 つの実数解をもつことを示しなさい。
分母を払った 2 次方程式の判別式が で、 は解にならないから。
として両辺に を掛けると
に を代入すると なので、 は を解にもちません。したがって、もとの方程式の実数解は の実数解と一致します。 の判別式は
よって は異なる 2 つの実数解をもち、もとの方程式も異なる 2 つの実数解をもちます。(証明終)
グラフで見ると、 は十字の右上と左下にあり、傾き の直線は右上と左下の両方へ伸びていくので、どう平行移動しても両方の部分と 1 回ずつ交わります。
問17 ★★★
関数 のグラフと直線 の共有点の個数を、定数 の値によって場合分けして求めなさい。
のとき 2 個, のとき 1 個, のとき 0 個
()の両辺に を掛けると
に を代入すると なので、 は を解にもたず、共有点の個数は の実数解の個数に等しくなります。
となるのは 。 は下に凸の 2 次式なので
で、漸近線の交点は 。そこを通る の直線は共有点をもたず、たしかに 個の範囲に入っています。
問18 ★★★
方程式 の解を求めなさい。
とおくと , より 。
ここで の値域は です(第1章 公式2)。したがって となる はありません。実際、 とすると となり、成り立ちません。
のとき より で、 を満たします。よって
確かめ: のとき で、 です。置きかえた文字は、とりうる値の範囲(値域)まで確かめる必要があります。
問19 ★★★
を定数とします。不等式 を満たす整数 がちょうど 2 個であるような の値の範囲を求めなさい。
公式4 より、不等式は と同じです(この不等式を満たす は を自動的に満たします)。
よって
端の確認: なら で整数は ( は含まない)。 なら整数は だけ。 なら で整数は 。 なら整数は だけです。
問20 ★★★
のグラフと、原点を通る直線 の共有点の個数を、定数 の値によって場合分けして求めなさい。
のとき 2 個, のとき 1 個, のとき 0 個
()の両辺に を掛けて
を代入すると なので、 は を解にもちません。
,( より), です。まとめて
のとき は で、接点は です。 は 2 次方程式にならないので、判別式とは別に調べる必要があります。
救急車がサイレンを鳴らして近づいてくるとき、音は少し高く聞こえ、目の前を通り過ぎた瞬間に低く変わります。この現象をドップラー効果といいます。1842 年、オーストリアのクリスティアン・ドップラーが、音や光の波の「高さ」が、出す側の動きによって変わると唱えたのが名前の由来です。
音の速さを 、止まっている音源が出す音の振動数を とします。音源が速さ でまっすぐ近づいてくると、止まって聞いている人には、振動数が
の音に聞こえます。音源が波を追いかけながら出すので、波の間隔が詰まり、音が高くなるのです。倍率 を の関数と見ると、縦の漸近線が にある分数関数です。音源の速さが音速に近づくほど、倍率はいくらでも大きくなります。音速で飛ぶ飛行機の前では、波が重なり合って「音の壁」ができます。
では、どのくらいの速さで近づけば、音は半音(振動数でおよそ 倍)以上高く聞こえるでしょうか。 m/s として、分数不等式
を解きます。 なので両辺に掛けてよく、 より 。秒速約 m、つまり時速およそ 70 km 以上で近づく車のクラクションは、止まっているときより半音以上高く聞こえる計算です。
ドップラーの説は、発表当初は疑いの目でも見られました。1845 年、オランダのボイス・バロットは、開通してまもない鉄道を使って確かめたといわれています。無蓋の貨車にラッパ吹きを乗せて同じ音を吹き続けてもらい、線路わきに並んだ音感のよい音楽家たちが、近づくときと遠ざかるときの音の高さを聞き分けたのです(※実験の細かな状況は伝える資料によって少しずつ違います)。
豆知識
音源が遠ざかるときは、分母が に変わって になります。時速約 60 km(秒速 m)の救急車なら、近づくときと遠ざかるときの音の高さの比は 。目の前を通り過ぎる一瞬で、音は全音(約 倍)に少し足りないくらい下がることになります。
時速 km で走る列車の中で、進行方向へ時速 km で歩くと、線路わきから見た速さは km です。速さはふつう、こうして足し算で合成できます。
ところが 1905 年、アインシュタインは特殊相対性理論の中で、この足し算が正確ではないことを示しました。速さ で動く乗り物の中で、同じ向きに速さ で動くものを外から見た速さ は
になるというのです。 は光の速さ(秒速約 万 km)です。ふだんの速さでは がきわめて小さいので、分母はほとんど で、ただの足し算と見分けがつきません。
速さを光の速さ を とする単位で測ると、式は となります。光の速さの半分どうしを合成すると 、 どうしでも で、 に届きません。一般に , なら
なので、いつでも です。この章の「移項して通分し、分子と分母の符号を見る」解き方が、そのまま「光より速くはなれない」ことの証明になっています。
さらに (光そのもの)とおくと、 がいくつでも です。動く乗り物から放った光も、外から見ればやはり光の速さ——「光の速さは、だれから見ても同じ」という相対性理論の出発点が、分数式の約分として現れます。
豆知識
を の定数として、 を の関数と見ると、 は分母・分子が 1 次式の分数関数です。第1章のように割り算で直すと、横の漸近線は 、縦の漸近線は で、どちらも の範囲からは遠く離れています。この範囲でグラフは右上がりで、 のとき 。 のとき から、ちょうど点 に向かって上っていく一本道になっています。
車を買いかえるなら、次のどちらのほうがガソリンを多く節約できるでしょうか。
B のほうが燃費の数字は も増えるので、B と答えたくなります。ところが、 km 走るのに必要なガソリンは L です。
節約量は A のほうが多いのです。使うガソリンの量は燃費 の分数関数 で、 が大きいところではグラフが寝てしまい、 を増やしてもあまり減りません。2008 年、アメリカの意思決定の研究者ラリックとソルは、多くの人が燃費の数字を「そのまま比例するもの」と思い込み、燃費の悪い車の改善の効果を小さく見積もってしまうことを実験で示し、これを「燃費の錯覚」とよびました(※彼らの研究はアメリカのマイル毎ガロン表示についてのものです)。
分数不等式で見ると、もっとはっきりします。燃費 km/L の車を km/L の車にかえて、 km あたり L 以上節約するには
が必要です。そして、どれほど燃費のよい車にしても、節約できるのは L 未満です。 は漸近線 に下から近づくだけだからです。
豆知識
ヨーロッパの多くの国では、燃費を「 km 走るのに何 L 使うか」(L/100 km)で表示します。この表示なら数字がそのまま使うガソリンの量に比例するので、A は ( 減)、B は ( 減)となり、A のほうが得だと一目で分かります。同じ性能でも、分数の「分子と分母のどちらを 1 にそろえるか」で、人の受けとり方は大きく変わるのです。
※ここは発展ページです。本文では「分母を払ったら分母を にする解を除く」「 は と同じ」「符号は区切りをまたぐたびに入れかわる」「曲線と直線の共有点の個数は判別式で決まる」を、手順として使いました。ここでは、方程式・不等式の「解」と「同値」を言葉で定め、これらの手順が正しい理由を証明します。
についての条件 (方程式や不等式)に対し、式に現れるすべての分母が でない実数 のうち、 を成り立たせるものを の解といい、解全体の集合を解集合という。
2 つの条件 , の解集合が一致するとき、 と は同値であるといい、 と書く。
「方程式を解く」とは、同値な条件へと書きかえていき、解集合が一目で分かる形( または など)にたどり着くことです。同値でない変形をしたときは、解集合が増えたり減ったりしていないかを別に確かめなければなりません。
,, を整式とし、 は定数 でないとする。方程式
の解集合をそれぞれ ,, の実数解の集合を とすると
が成り立つ。
証明 とする。定義1 より で、(A) の両辺に を掛けて (B) が成り立つ。よって かつ 。
逆に , とする。 なので、(B) の両辺を で割ると (A) が成り立つ。よって 。(証明終)
分母を払うと から へ解集合が広がることはあっても、解を落とすことはありません。増えうるのは の要素、つまり分母を にする だけです。本文の公式1で「最後に分母を にする を除く」だけでよかったのは、この定理のおかげです。
, を整式とし、 は定数 でないとする。このとき
が成り立つ(, についても同様)。
証明 のとき であり、正の数を掛けても割っても不等号の向きは変わらないので
の場合も同じ変形で (ただし のもとで)となる。
残るのは となる である。そのような は、定義1 より左辺の不等式の解ではない。右辺については、 は では成り立たないので条件を付ける必要はないが、 は で成り立ってしまうので「かつ 」を付けて除く。(証明終)
次は、符号の表の「右端はいつも 、区切りをまたぐたびに符号が入れかわる」を証明します。ここでは中間値の定理のような「グラフがつながっている」ことは使わず、因数の符号を数えるだけで示します。
とし、 とする。, と書くことにして、 が区間 ()にあるとき
である。とくに右端の区間 では で、区間を 1 つ左へ移るごとに符号が入れかわる。
証明 のとき、 なら なので 、 なら なので 。負の因数はちょうど 個あり、どの因数も でないから、積の符号は である。(証明終)
同じ因数が重なる場合、たとえば では、 は の前後で符号が変わらない( ならいつも正)ので、 をまたいでも積の符号は変わりません。定理3 は、因数がすべて異なるときの話です。また、定理3 の証明には「関数の値がとびとびにならない」という性質を一度も使っていません。本文の公式3(グラフの上下が入れかわるのは共有点と漸近線だけ)も、差 を 1 つの分数にまとめて因数分解できる場合には、この定理から直接示せます。
最後に、本文の公式5を、共有点の個数の上限まで含めて確かめます。
とし、曲線 : と直線 を考える。
証明 1. なら がただ 1 つ決まる。 は の定義域に入らない。
は ()とただ 1 通りに解ける。 なら となるが、 なのでこれを満たす はない。
共有点の 座標は、方程式 の解である。定理1 より、その解集合は の解集合から を除いたものである。ところが を代入すると左辺は 、右辺は なので、 はもともと解ではない。よって 2 つの解集合は一致する。この方程式は の係数が の 2 次方程式なので、異なる実数解は 個以下である。(証明終)
定理4 から、直角双曲線とどんな直線も、3 点以上で交わることはありません。本文 j20 の の場合が 2. の (漸近線そのもの)にあたり、判別式を使わずに別に調べる必要があったのは、方程式が 2 次式にならないからでした。
この章の学習が終わったら
学習完了テストを受ける