問1
確率変数 の確率分布が次の表で与えられています。
| 計 | ||||
|---|---|---|---|---|
の値を求めなさい。
答えを見る答えを閉じる
より
目次 / データの分析と統計 / 数学B
—— 「どの値がどれだけの確率で出るか」を表にまとめ、平均の見込みとばらつきを数で表す ——
第1〜5章では、すでに集めたデータの平均値や分散を調べました。この章からは数学B の範囲に入り、「これから行う試行で、どの値がどれだけの確率で出るか」を相手にします。場合の数と確率の分野(第9章)で学んだ期待値に $E(X)$ という記号を付け、第3章の分散・標準偏差を確率の言葉で定め直します。さらに、値を一斉に変えたときの変わり方、2つの確率変数の和の期待値、独立な確率変数の和の分散を順に学びます。第7章の二項分布、第8章の正規分布、第9章の推定へと続く、数学B の統計の土台になる章です。
第1〜5章では、テストの得点や通学時間のように、すでに集めたデータを整理しました。平均値や分散は、表に並んだ値から計算できました。
この章で相手にするのは、これから行う試行で決まる値です。さいころを投げる前に「出る目」は分かりませんが、「どの目がどれだけの確率で出るか」は分かっています。場合の数と確率の分野(第9章)では、こうした値について「値 × 確率」を足して期待値を求めました。この章では、その考え方に記号を付けて整理し、第3章の分散・標準偏差を確率の世界に持ちこみます。
赤玉 個と白玉 個が入った袋から、玉を同時に 個取り出します。取り出した赤玉の個数を とすると、 は ,, のどれかになり、それぞれの値になる確率が決まっています。このように、試行の結果によって値が決まり、しかも各値をとる確率が決まっている変数を考えます。
試行の結果によって値が定まり、その値をとる確率が定まっている変数 を確率変数という。 のとりうる値が ,,…, で、それぞれの値をとる確率が ,,…, のとき、次の表を の確率分布(または単に分布)という。
| 計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
ここで ,,…,, である。
が値 をとる確率を 、 が 以上 以下の値をとる確率を と書く。
確率変数は、ふつう ,, のような大文字で表し、そのとる値は や のような小文字で表します。
テストの採点にたとえると分かりやすいでしょう。答案そのものは文字や図の集まりで、足したり平均したりできません。けれども採点すると、1枚ごとに点数という数が付きます。確率変数は、試行の結果(玉の取り出し方や、さいころの目の出方)という「答案」に、決まったルールで数を付ける採点係です。数が付いたおかげで、平均やばらつきを計算できるようになります。
確率変数とは試行の結果に数を割り当てたもので、とりうる値と確率を並べた表が確率分布だということです。
赤玉 個と白玉 個が入った袋から、玉を同時に 個取り出します。取り出した赤玉の個数を とするとき、 の確率分布と、確率 を求めなさい。
【解答】
個から 個を取り出す方法は 通りで、これらは同様に確からしいです。
よって、 の確率分布は次のとおりです。
| 計 | ||||
|---|---|---|---|---|
また
余事象を使って と求めることもできます。
場合の数と確率の分野(第9章)で学んだ期待値を、記号を使って書き直します。
確率変数 の確率分布が公式1 の表で与えられるとき
を の期待値または平均という。 を で表すことも多い。
は期待値を意味する英語 expectation の頭文字です。
第1章の公式2 で、度数分布表から平均値を と求めました。これは と書き直せて、相対度数 で重みをつけて足す形です。公式2 は、この相対度数を確率 に置きかえたものになっています。
名簿からくじで1人を選ぶ場面を考えると、2つがぴったり重なります。クラス全員の身長の表があり、くじで1人を選んでその人の身長を とします。身長が の人が 人いれば なので、 の期待値はクラスの身長の平均値と一致します。「データの平均値」は「データからでたらめに1つ選んだ値の期待値」と言いかえられるわけです。
期待値 は「値 × 確率」の合計で、データの平均値の相対度数を確率に置きかえたものだということです。
(1) 例題1 の確率変数 の期待値 を求めなさい。
(2) ある学年の 人のきょうだいの人数(本人を含む)を調べたところ、次の表のようになりました。この 人からくじで 人を選び、その人のきょうだいの人数を とします。
| きょうだいの人数 | 1 | 2 | 3 | 4 | 計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 人数 | 6 | 9 | 4 | 1 | 20 |
の期待値 を求めなさい。
【解答】
(1)
(2) の確率分布は、人数を で割った相対度数そのものです。
これは 人のきょうだいの人数の平均値 と同じ値です。
場合の数と確率の分野(第9章 公式3)では、「期待値は平均の見込みを表すが、ぶれの大きさまでは表さない」ことに触れました。そのぶれを数で表します。
ある駅から学校まで、2つのバスの路線 A、B があります。所要時間を 分、 分とすると、確率分布は次のとおりです。
| (路線 A) | 計 | |||
|---|---|---|---|---|
| (路線 B) | 計 | |||
|---|---|---|---|---|
どちらも期待値は 分です。けれども、遅刻できない日に乗るなら、多くの人は路線 A を選ぶでしょう。路線 B は 分も遅れることがあるからです。平均の見込みが同じでも、期待値のまわりへの散らばり方が違います。第3章と同じように、「期待値からのずれの 2 乗」の期待値で散らばりを測ります。
確率変数 の期待値を とするとき
を の分散といい、その正の平方根
を の標準偏差という。分散は次の式でも求められる。
ここで である。
は分散を意味する variance の頭文字です。標準偏差は と同じ単位(ここでは「分」)になります。
2 つ目の式は、第3章の公式3 と同じ形です。 を公式3 の和に代入すると
となります。期待値 が分数のときは、2 つ目の式のほうが計算が楽になることが多いです。
路線 A、B で計算すると
です。「平均 分、ぶれの目安 分」と「平均 分、ぶれの目安 分」と言えば、2つの路線の違いがはっきり伝わります。
分散 は期待値からのずれの 2 乗の期待値、標準偏差 はその平方根で、どちらも「値が期待値のまわりにどれだけ散らばるか」を表すということです。
例題1 の確率変数 (赤玉の個数)の分散 と標準偏差 を求めなさい。
【解答】
例題2 より です。
なので
確かめ:定義の式で計算すると
となり、一致します。
場合の数と確率の分野(第9章 公式4)で、 の期待値が になることを学びました。分散と標準偏差も同じように求められます。
を確率変数、, を定数とするとき
が成り立つ。
分散のほうは次のように確かめられます。 なので、各値のずれは
となり、 は消えます。これを 2 乗すると なので、 です。第3章の公式5()と同じ結果です。
アルバイトの時給で考えてみます。ある店で、全員の時給を 倍にし、さらに全員に交通費として 円を足すことにしました。 円の人と 円の人の差 円は、 倍されて 円に広がります。一方、全員に同じ 円を足しても、人と人との差は少しも変わりません。散らばりを変えるのは「かける数」だけで、「足す数」は全体の位置をずらすだけです。
にすると、期待値は 、分散は 倍、標準偏差は 倍になり、足した は散らばりに影響しないということです。
例題1 の試行で、取り出した赤玉 個につき 円をもらい、参加料として 円を払います。差し引きの受け取る金額を 円とします。
(1) の期待値、分散、標準偏差をそれぞれ求めなさい。
(2) とおくとき、 と をそれぞれ求めなさい。
【解答】
例題2・3 より ,, です。
(1) なので、公式4 より
(2) と書けるので、, として
期待値を引いて標準偏差で割ると、期待値 、標準偏差 の確率変数になります。第3章の公式6 の「標準化」と同じ操作で、第8章の正規分布で大切な役割をします。
2 つの確率変数 , を同時に考えることがあります。例えば、,,, の札が 枚ずつ入った箱から、札を 枚ずつ 回、もとに戻さずに引き、1 回目の数を 、2 回目の数を とします。 かつ となる確率を と書き、すべての組について並べた表を、 と の同時分布といいます。
| 計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 計 |
同じ札は 2 回引けないので、対角線の確率は です。表の右端の「計」の列が だけの分布、下端の「計」の行が だけの分布になります。
2 つの確率変数 , について
が成り立つ。さらに、定数 , について である。3 つ以上の確率変数についても同様で
となる。この式は、 と が影響し合っていても成り立つ。
理由は、同時分布の表の各ます目で「 確率」を足すとき、 の部分だけを集めると行ごとの合計から が、 の部分だけを集めると列ごとの合計から が出てくるからです(詳しくは厳密定義のページ)。
2 科目のテストの合計点を思い浮かべてください。数学の平均点が 点、英語の平均点が 点なら、合計点の平均は 点です。数学の得意な人が英語も得意だったとしても、この足し算は変わりません。合計の平均は、それぞれの平均を足すだけで求められます。
和の期待値は期待値の和で、 と が影響し合っていてもそのまま足してよいということです。
上の箱(,,, の札)から、札を 枚ずつもとに戻さずに引きます。
(1) 2 回引いたとき、引いた札の数の和 の期待値を求めなさい。
(2) 3 回引いたとき、引いた札の数の和の期待値を求めなさい。
【解答】
(1) 表の下端より、 の分布は と同じで、どの数も確率 です。
公式5 より
確かめ:和は から で、同時分布の表から数えると ,,,, になる確率はそれぞれ ,,,, です。和と確率の分子の積の合計は
なので、期待値は
(2) 3 回目の数を とすると、 もどの数も確率 です(くじ引きの順番は確率に影響しません。場合の数と確率の分野 第8章)。
残る 枚の数を とすれば、4 枚の合計はつねに なので とも確かめられます。
さいころを 2 回投げるときの 1 回目の目と 2 回目の目のように、一方の値がもう一方の値の出方に影響しない 2 つの確率変数を考えます。
2 つの確率変数 , について、 のとる任意の値 と のとる任意の値 に対して
が成り立つとき、 と は独立であるという。 と が独立ならば
が成り立つ。3 つ以上の確率変数についても、どれも互いに独立ならば、分散は同様に足し合わせることができる。
独立な試行(場合の数と確率の分野 第7章)で、それぞれの試行の結果だけで決まる確率変数は独立です。
公式6 の 2 つ目の式には、2 つの注意があります。
また、標準偏差はそのまま足せません。 です。東に m 歩いてから北に m 歩くと、進んだ道のりは m でも、出発点からの距離は三平方の定理で m です。独立な 2 つのばらつきは、この東と北のように「別々の向き」に広がるので、合わせたばらつきは足し算より小さくなります。例えば、上の路線 B のバス(標準偏差 分)を降りて、所要時間の標準偏差が 分の電車に乗りかえると、2 つが独立なら合計の所要時間の標準偏差は 分です。
独立な確率変数では、積の期待値は期待値の積になり、和や差の分散は分散の和になるということです(標準偏差は足さず、2 乗して足してから平方根をとります)。
大小 2 個のさいころを投げ、大きいさいころの目を 、小さいさいころの目を とします。
(1) 積 の期待値を求めなさい。
(2) 和 と差 の分散をそれぞれ求めなさい。
【解答】
2 個のさいころの目の出方は互いに影響しないので、 と は独立です。
も同じ分布なので、, です。
(1) 公式6 より
(2) 公式6 と、上の注意(差でも分散は足す)より
は から 、 は から の値をとり、期待値は と で違いますが、分布の形はどちらも 通り中 通りの山形で、散らばり方は同じです。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
確率変数 の確率分布が次の表で与えられています。
| 計 | ||||
|---|---|---|---|---|
の値を求めなさい。
より
問2
確率変数 の確率分布が次の表で与えられています。
| 計 | ||||
|---|---|---|---|---|
の期待値 を求めなさい。
問3
k02 の確率変数 の分散 を求めなさい。
より、
問4
確率変数 の期待値が 、分散が です。
(1) の期待値
(2) の分散
上の (1)、(2) の値をそれぞれ求めなさい。
(1) (2) ( は分散に影響しない)
問5
確率変数 , は独立で、, です。 の分散と標準偏差をそれぞれ求めなさい。
,
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
3 枚の硬貨を同時に投げ、表が出る枚数を とします。 の確率分布と、確率 を求めなさい。
| 計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
表裏の出方は 通りで、同様に確からしいです。表が 枚になる出方は、表になる硬貨の選び方 通りなので
| 計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
確率の合計が になることも確かめておきます。
問2 ★
確率変数 の確率分布が次の表で与えられています。
| 計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
の値と、 の期待値 をそれぞれ求めなさい。
,
確率の合計は なので
このとき です。分母を にそろえると、確率は順に ,,, となります。値と確率の分子の積の合計は
なので
問3 ★
1 個のさいころを投げ、出た目を で割った余りを とします。 の期待値、分散、標準偏差をそれぞれ求めなさい。
,,
余りは、目が , なら 、, なら 、, なら です。どれも 通り中 通りなので
| 計 | ||||
|---|---|---|---|---|
問4 ★
確率変数 について、, であることが分かっています。 の分散と標準偏差をそれぞれ求めなさい。
,
公式3 の 2 つ目の式を使います。
問5 ★
確率変数 の期待値が 、標準偏差が です。 とするとき、 の期待値、分散、標準偏差をそれぞれ求めなさい。
,,
です。公式4 で , とすると
標準偏差は ではなく、絶対値をとって です。散らばりの大きさは負になりません。
問6 ★
30 人の生徒について、1 週間に図書館を利用した回数を調べたところ、次の表のようになりました。
| 利用回数 | 0 | 1 | 2 | 3 | 計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 人数 | 6 | 12 | 9 | 3 | 30 |
この 30 人からくじで 1 人を選び、その生徒の利用回数を とします。 の期待値、分散、標準偏差をそれぞれ求めなさい。
,,
の確率分布は、人数を で割ったものです。値と人数の積の合計は
なので
値の 2 乗と人数の積の合計は
なので
これらは、30 人の利用回数のデータの平均値・分散・標準偏差(第1章・第3章)と同じ値です。
問7 ★
1 個のさいころを投げ、出た目を 、出た目を で割った余りを とします。
(1) の期待値
(2) の期待値
上の (1)、(2) の値をそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
です。 は目が奇数なら 、偶数なら なので、 です。
と は同じ目から決まるので影響し合っていますが、公式5 は独立でなくても使えます。
(1)
(2)
確かめ:目が から のとき、 は 、 は で、平均はそれぞれ , です。
問8 ★
確率変数 , は独立で、,,, です。
(1) の期待値
(2) の分散
上の (1)、(2) の値をそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) , は独立なので、公式6 より
(2) と も独立です。公式6 と公式4 より
としてしまうのはよくある誤りです。差をとっても分散は足し合わせます。
問9 ★★
から までの番号が 1 つずつ書かれた 5 個の玉が入った袋から、玉を同時に 2 個取り出します。取り出した玉の番号のうち大きいほうを とするとき、 の期待値と分散をそれぞれ求めなさい。
,
取り出し方は 通りです。大きいほうが になるのは、もう 1 個を から の中から選ぶときで、 通りあります。
| 計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
値と確率の分子の積の合計は
なので
値の 2 乗と確率の分子の積の合計は
なので
問10 ★★
1 枚の硬貨を、表が出るまで投げます。ただし、投げるのは最大 3 回までとし、3 回目は表裏にかかわらずそこでやめます。投げた回数を とするとき、 の期待値と標準偏差をそれぞれ求めなさい。
,
合計は です。
問11 ★★
確率変数 は ,, のいずれかの値をとり、,, です。, であるとき、,, の値をそれぞれ求めなさい。
,,
より です。条件を式にすると
2 つ目と 3 つ目の差から 、よって 。2 つ目から 。1 つ目から です。
どれも 以上なので、確率分布として成り立っています。
問12 ★★
確率変数 の期待値が 、標準偏差が です。定数 ,()を用いて とすると、 の期待値が 、標準偏差が になりました。, の値をそれぞれ求めなさい。
,
公式4 より
なので です。次に
は標準偏差に影響しないので、先に標準偏差の式から を決めるのが近道です。
問13 ★★
ある農園でとれるメロン 1 個の重さを g とすると、 の確率分布は次のとおりです。
| 計 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
とおくことにより、 の期待値と標準偏差をそれぞれ求めなさい。
g, g
は ,,,, の値をとり、確率は と同じです。値と確率の分子の積の合計は
なので です。値の 2 乗と確率の分子の積の合計は
なので
なので , です。 なので、公式4 より
第1章・第3章の仮平均()と同じ工夫で、大きな数の 2 乗を計算せずにすみます。
問14 ★★
か の値をとる確率変数 , の同時分布が、次の表で与えられています。
| 計 | |||
|---|---|---|---|
| 計 |
(1) の期待値
(2) の分散
上の (1)、(2) の値をそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) は のときだけ 、それ以外は です。
一方、, で です。 なので、 と は独立ではありません(実際、 ですが です)。
(2) 独立でないので、公式6 は使えません。 の分布を表から作ります。
| 計 | ||||
|---|---|---|---|---|
とは一致しません。 と は「一方が だと他方も になりやすい」関係なので、和のばらつきが大きくなっています。
問15 ★★
1 個のさいころを 10 回投げ、出た目の合計を とします。 の期待値と分散をそれぞれ求めなさい。
,
回目の目を とすると、 です。例題6 より、各 について
公式5 より
10 回の目の出方は互いに影響しないので は独立です。公式6 より
の確率分布( 通り)を書かなくても、期待値と分散は求められます。
問16 ★★
1 個のさいころと 1 枚の硬貨を同時に投げ、さいころの出た目の数を得点とし、さらに硬貨が表なら 点を加えます。得点の合計を とするとき、 の期待値と分散をそれぞれ求めなさい。
,
さいころの目を 、硬貨が表なら 、裏なら をとる確率変数を とすると、 です。
,(例題6)です。
さいころと硬貨は独立なので、 と も独立です。
硬貨の 点が 2 乗されて効くので、分散の大部分は硬貨によるものです。
問17 ★★★
3 個のさいころを同時に投げるとき、出る目の種類の数を とします(例えば、目が なら )。 の期待値を求めなさい。
解法1(0 と 1 の確率変数の和に分ける)
について、目 が少なくとも 1 個出れば 、出なければ をとる確率変数を とします。すると
です。 の期待値は「目 が少なくとも 1 個出る確率」で、余事象を使うと
公式5 より( は独立ではありませんが、和の期待値には関係ありません)
解法2(確率分布を作る)
通りのうち
値と通り数の積の合計は
なので
となり、一致します。さいころの個数が増えて分布を作るのが大変になっても、解法1 ならすぐに求められます。
問18 ★★★
1 個のさいころを 回投げ、出た目の平均 を考えます( は 回目の目)。 の標準偏差が 以下になるような最小の自然数 を求めなさい。
は独立で、それぞれ (例題6)です。公式6 より
公式4 で とすると
は と同じなので
よって、最小の は です。
なので、平均のばらつきを にするには回数を 倍にする必要があります。この性質は第9章の推定で使います。
問19 ★★★
赤玉 2 個と白玉 2 個が入った袋から、玉を 1 個ずつ 2 回取り出します。1 回目に赤玉が出れば 、白玉なら とし、2 回目についても同じように を定めます。
(1) 取り出した玉をもとに戻さないとき、 の分散
(2) 取り出した玉をもとに戻すとき、 の分散
上の (1)、(2) の値をそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
は取り出した赤玉の個数です。どちらの場合も で、 の分散は 、 も同じです。
(1) 戻さないとき、 と は独立ではないので、 の分布を作ります。
(2) 戻すとき、1 回目の結果は 2 回目に影響しないので と は独立です。公式6 より
期待値はどちらも ですが、戻さないほうが分散は小さくなります。1 回目に赤が出ると 2 回目は赤が出にくくなり、「両方赤」「両方白」という極端な結果が起こりにくくなるからです。
問20 ★★★
1 回の試行で事象 が起こる確率を ()とし、 が起これば 、起こらなければ をとる確率変数を とします。
(1) の分散を で表した式
(2) (1) の分散の最大値と、そのときの の値
(3) この試行を 100 回くり返し(各回の結果は互いに影響しない)、 が起こった回数を とするとき、 の標準偏差の最大値
上の (1)〜(3) をそれぞれ求めなさい。
(1) (2) のとき最大値 (3)
(1) は を確率 、 を確率 でとるので
(2) 平方完成すると
なので、 です。確率が五分五分のときに、結果がいちばん読みにくい(ばらつく)ということです。
(3) 回目に が起これば 、起こらなければ をとる確率変数を とすると、 で、 は独立です。公式6 より
等号は のときに成り立つので、 の最大値は です。
という形は、第7章の二項分布の分散の公式になります。
76 年ほどごとに地球に近づくハレー彗星(すいせい)は、イギリスの天文学者エドモンド・ハレーの名にちなんでいます。彼は、何度も記録に残っていた彗星が同じ一つの天体だと見抜き、次の回帰を予言しました。その予言が当たったのは、ハレーの死後の 1758 年のことです。
そのハレーが、1693 年に天文学とはまったく別の論文を発表しています。当時ドイツ語圏の町だったブレスラウ(いまのポーランドのヴロツワフ)には、生まれた人と亡くなった人の年齢が教会にていねいに記録されていました。ハレーはその数年分の記録をもとに、「生まれた 1000 人のうち、何歳まで何人が生きているか」を年齢ごとに並べた表を作りました。これが、現在の生命表の原型とされています。
ハレーがこの表を作った目的の一つは、国が売り出していた終身年金(生きている間ずっと毎年お金を受け取れる契約)の値段を計算することでした。受け取る年数は人によってばらばらですが、年齢ごとに「あと何年生きるか」の確率が分かれば、支払う金額の期待値が計算できます。当時の年金は、若い人にも年配の人にも同じ値段で売られていて、ハレーは年齢によって値段を変えるべきだと指摘しました。
現在の生命表で公表されている平均余命は、「ある年齢の人が、あと何年生きるか」を確率変数とみたときの期待値です。0 歳の平均余命が、いわゆる平均寿命です。2023 年の日本の簡易生命表では、平均寿命は男性がおよそ 81 年、女性がおよそ 87 年でした。
豆知識
平均寿命は「多くの人が亡くなる年齢」ではありません。若くして亡くなる人がいると、期待値は小さいほうへ引っぱられるため、亡くなる人がいちばん多い年齢(最頻値)は平均寿命より高くなります。また、すでに 65 歳まで生きた人の平均余命は、男性でおよそ 20 年、女性でおよそ 24 年あり、「平均寿命 − 65」よりも長くなります。
「卵を一つのかごに盛るな」ということわざがあります。かごを落としたら全部割れてしまうから、いくつかのかごに分けておけ、という意味です。投資の世界では、お金を一つの会社の株にまとめず、いくつもの会社に分けて持つ分散投資の心得として使われます。
この心得を数学の言葉で表したのが、アメリカの経済学者ハリー・マーコウィッツです。1952 年の論文「ポートフォリオ選択」で、彼は投資の成績を確率変数とみて、その期待値を「もうけの見込み」、分散を「危なさ」として扱いました。そのうえで、「期待値が同じなら分散が小さい組み合わせのほうがよい」と考え、どう組み合わせれば分散が小さくなるかを計算で示しました。
この章の公式6 を使うと、その仕組みが見えてきます。成績の期待値が同じ 、標準偏差が同じ で、互いに独立な 個の投資先に、お金を ずつ分けたとします。全体の成績の期待値は のままですが、分散は
となり、標準偏差は に小さくなります。見込みを減らさずに、危なさだけを減らせるのです。
ただし、現実の会社の株は、景気が悪くなると一斉に下がるように、独立ではありません。そのため、どれだけ分けても危なさは にはならず、「互いにどれくらい連動しているか」が組み合わせを選ぶ鍵になります。マーコウィッツはこの研究などにより、1990 年にノーベル経済学賞を受けました。
豆知識
ノーベル経済学賞は、ノーベルの遺言で作られた 5 つの賞とは別に、スウェーデンの中央銀行が 1968 年に設けた賞です。正式には「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」といい、第 1 回の授賞は 1969 年でした。
『カタンの開拓者たち』は、ドイツのクラウス・トイバーが考え、1995 年に発売されたボードゲームです。島を開拓して村や街道を作り、得点を競います。
盤面は六角形のタイルでできていて、それぞれに から までの数字のチップが置かれます。毎回、2 個のさいころを振り、出た目の和と同じ数字のタイルから資源が手に入ります。このチップをよく見ると、数字の下に小さな点が打ってあります。 と には点が 1 つ、 と には 2 つ、 と には 3 つ、 と には 4 つ、 と には 5 つです。 と は赤い字で目立つように書かれています。
この点の数は、2 個のさいころの目の和がその数になる出方の数(36 通りのうち)そのものです。つまりチップには、和の確率分布が点で描かれています。 のチップが無いのは、いちばん出やすい が出ると資源の代わりに盗賊が動く、というルールになっているからです。
プレイヤーは、村を建てる場所を選ぶときに、この点を数えます。例えば ,, のタイルが接する場所なら、点は 個で、1 回振るごとに資源が手に入る個数の期待値は 個です。,, の場所なら 個にすぎません。ルールブックを読まなくても、点を数えるだけで期待値の比較ができるように作られているのです。
豆知識
さいころ 2 個の和の分布は、 を頂点とする三角形の山になります。3 個、4 個と増やして和をとると、山の形は角がとれて、左右対称の釣り鐘のような形に近づいていきます。この形が、第8章で学ぶ正規分布です。
※ここは発展ページです。確率変数 、確率分布、期待値 、期待値の線形性、独立な確率変数の積の期待値、マルコフの不等式は、場合の数と確率の分野 第9章の厳密定義で定めて証明しました(以下「確率 第9章 定理◯」と書きます)。ここではその上に、分散・同時分布・独立・共分散を定め、本文の公式3〜6 を証明し、「平均をとるとばらつきが小さくなる」ことを確率の不等式で表します。
以下、 は有限集合、 は 上の確率分布(,)で、事象 の確率を とします。確率変数はすべて同じ 上で考えます。
確率変数 について とする。確率変数 の期待値
を の分散、 を の標準偏差という。
確率 第9章 定理1 と同じく、 を の値ごとにまとめれば、本文の公式3 の形 になります。各項が 以上なので で、 は必ず定まります。
とするとき、次が成り立つ。
(1)
(2) であるための必要十分条件は、 であるすべての で となることである。
(3) 任意の実数 について 。特に は のとき最小で、最小値は である。
証明 (1) に確率 第9章 定理2 の線形性を使うと
(2) は 以上の項 の和なので、 はすべての項が になることと同じである。 の では、それは を意味する。逆は明らか。
(3) と分けて 2 乗すると
なので、 となる。(証明終)
(3) は、データについての第3章 厳密定義の式 の確率版です。第1章の厳密定義で見た「平均値はずれの 2 乗の和を最小にする」も、期待値について同じ形で成り立ちます。
(2) で「 の」と断っているのは、確率 の結果では が何をしても分散に影響しないからです。確率 の結果を除けば、分散が の確率変数は定数と同じです。
定数 , について、, である。
証明 (確率 第9章 定理2)より、 だから
両辺の正の平方根をとって 。(証明終)
特に のとき、 は , を満たします(本文 例題4 (2))。この を の標準化といいます。
確率変数 , のとる値の組 に、事象 の確率 を対応させたものを、 と の同時分布という。
のとる値を とすると、事象 は、どの 2 つも交わらない事象「」()に分かれます。よって
で、本文の同時分布の表で「行の合計が の分布になる」のはこのためです(この だけの分布を周辺分布ということもあります)。
のとる任意の値 と のとる任意の値 について
が成り立つとき、 と は独立であるという。3 つ以上の確率変数 については、任意の値 について
が成り立つとき、互いに独立であるという。
これは、すべての , について事象 と が独立(確率 第7章 定義2)である、ということです。独立な試行を表す直積の確率分布 (確率 第7章 定義1)の上で、 が だけ、 が だけで決まるなら、確率 第7章 定理1 から と は独立になります。本文で「独立な試行の結果だけで決まる確率変数は独立」としたのは、この事実です。
定義3 の 3 つ以上の場合は、確率 第7章の 3 つの事象の独立とは形が違って見えますが、確率変数の値すべてについての等式なので、途中の変数について和をとれば、そこから一部の変数だけの等式も出てきます。
と が独立ならば、任意の関数 , について と も独立である。
証明 となるのは が集合 の値をとるとき、 となるのは が集合 の値をとるときである。事象「」はどの 2 つも交わらないので
右辺は である。(証明終)
実践 問8 で「 と も独立」としたのは、この定理によります。
, とするとき
を と の共分散という。, のとき
を と の相関係数という。
第4章で、データの共分散を 、相関係数を と書きました。確率変数では、どの 2 つの共分散かを明示するため と書き(Cov は covariance の略)、相関係数はギリシャ文字 (ロー)で表します。名簿からくじで 1 人を選ぶ場合(本文 公式2 の例え)には、 はデータの と一致します。 です。
(1)
(2)
(3) と が独立ならば であり、 となる。
証明 (1) 展開して線形性を使うと
(2) だから、 となる。これを 2 乗して期待値をとると
で、これは (2) の右辺である。
(3) 独立ならば確率 第9章 定理5 より なので、(1) から 。(2) に代入すればよい。(証明終)
(2) は、第4章 厳密定義の の確率版です。本文 例題5 の札の例では、引き方 通りの積 の合計が なので、 です。よって
となり、本文の値と一致します。1 回目に大きい数を引くと 2 回目は小さい数になりやすいので、共分散が負になり、和の分散が より小さくなっています。
(3) の逆は成り立ちません。 が ,, を確率 ずつでとり、 とすると、, なので です。しかし に対して なので、独立ではありません。第4章 厳密定義の「 でも無関係とは限らない( の例)」と同じ現象です。
相関係数については、第4章 定理2 と同じ議論( がすべての実数 で成り立つことと判別式、 など)で が示せます。
が互いに独立ならば
である。特に、各 の期待値が 、分散が で等しいとき、 について
が成り立つ。
証明 定理4 (2) をくり返し使うと、 となる。互いに独立ならば、定義3 の等式を残りの変数について足し合わせることで、どの 2 つ , も独立になるから、定理4 (3) より である。
後半は、線形性より 、定理2 と前半より 。(証明終)
証明を見ると、分散を足し合わせるのに本当に必要なのは「どの 2 つの共分散も 」という条件だけだと分かります。
確率 第9章 定理6(マルコフの不等式)の末尾で、「期待値から大きく外れる確率をおさえる」ことを予告しました。分散を使うと、それができます。
, とする。任意の正の数 について
が成り立つ。特に のとき、()とすると である。
証明 確率変数 はつねに 以上で、 である。また と は同じ事象である。マルコフの不等式(確率 第9章 定理6)を と に使うと
(証明終)
第3章の厳密定義では、データについて「平均値から標準偏差の 倍以上離れた値の割合は 以下」を示しました。名簿からくじで 1 人を選ぶ確率変数に定理6 を使えば、その結果がそのまま出てきます。分布の形を何も仮定しない代わりに、評価は粗めです。例えば の上限は ですが、第8章の正規分布では実際の確率はおよそ です。
が互いに独立で、どれも期待値 、分散 をもつとする。 とおくと、任意の正の数 について
であり、したがって である。
証明 定理5 より , である。定理6 を に使えば不等式を得る。右辺は で に近づき、左辺は 以上なので、極限は である。(証明終)
ここで は、 ごとに 回の独立な試行の直積(確率 第7章 定義1)の上で考えています。
さいころを投げる回数を増やすと、出た目の平均は、どんなに小さな幅 を決めても、 から 以上ずれる確率が に近づきます。確率 の事象について「起これば 、起こらなければ 」の確率変数(本文 実践 問20 の )を考えると、 は 回中に起こった割合(相対度数)です。第5章で確率を「実験を何度もくり返したときの相対度数」で見積もったのは、この定理が支えています。定理7 から、,(最大の場合)でも、 回くり返せば、相対度数が確率から 以上ずれる確率は 以下です。
この章の確率変数は、どれも有限個の値しかとりませんでした。第7章では、実践 問20 の (独立な「 か 」の和)の分布を二項分布として調べ、定理5 から , が一度に得られることを見ます。第8章では、身長や時間のように連続した値をとる確率変数を扱うため、和 を積分 に、確率 を確率密度関数に置きかえます。その上でも、期待値・分散の定義と、この章の定理はほぼそのままの形で成り立ちます。
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