問1
一次変換 を 軸に関する対称移動、 を原点まわりの 回転とするとき、合成変換 を表す行列を求めなさい。
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(。直線 に関する対称移動になる)
目次 / 行列と一次変換 / 旧数学C(課程外)
—— 変換を続けて行うことが行列の積、もとに戻すことが逆行列 ——
第 7 章までに、回転・対称移動・拡大・せん断と、一次変換の道具がひととおりそろいました。この章では、それらを**つないで使う**ことを学びます。$45^\circ$ 回してから横に $2$ 倍に伸ばす。折り返してから回す。そうやって続けて行った動き全体も、やはり 1 つの一次変換で、その行列は**もとの 2 つの行列の積**になります。第 2 章で「かけ算をこう決めた理由は第 6 章から分かる」と予告したまま置いてあった約束を、ここで果たすことになります。もう 1 つの主題は、動かした点をもとの位置に引き戻す**逆変換**です。逆行列がそのまま使えますが、「戻せる変換」と「戻せない変換」の境目が行列式にあることも、あらためて見えてきます。
平面の点を、まず一次変換 で動かし、着いた先をさらに一次変換 で動かす。写真の加工アプリで、フィルターを 2 つ重ねがけするようなものです。
このとき、出発点から最後の行き先までを 1 つの移動と見てしまえば、「点を点に移す規則」がもう 1 つできあがります。これを と の合成変換といいます。
行列で書いてみましょう。 を表す行列を 、 を表す行列を とし、点 の位置ベクトルを とします。 で移った先は 。それをさらに で移すのですから、最後の行き先は
です。ここで第 2 章 公式7 の結合法則 を使います。すると最後の行き先は、はじめから行列 をかけたものに等しい。つまり合成変換もまた一次変換で、それを表す行列は だということになります。
一次変換 (表す行列 )を行ったあとに一次変換 (表す行列 )を行う変換を、 と の合成変換といい
と書く(「 マル 」と読む)。 は一次変換であり、それを表す行列は
である。すなわち 。
先にはたらくほうを右に書く。 の記号も、行列の積 も、右にあるものが先である。
順番の書き方が、日本語と逆になるところが厄介です。「 をしてから をする」なのに、書くのは 、行列は 。第 2 章の小話でも触れましたが、後からはたらくほうを左に書くと覚えてください。理由は上の式にあります。 に近い側、つまり右にあるものから順に作用していくのです。
合成を考える利点は、はっきりしています。 と を別々に施すには、点ごとに 2 回の計算が要ります。ところが積 を先に 1 回だけ計算しておけば、あとはどの点にも 1 回かけるだけで済む。加工アプリで、何段階かの調整をまとめて 1 つのプリセットとして保存しておくのと同じです。何万個もの点を動かすコンピュータグラフィックスでは、この差がそのまま速さの差になります。
変換を続けて行うことは行列をかけることであり、 のあとに を行う合成変換 を表す行列は、 と をこの順にかけた だということです。
一次変換 は 軸方向に 倍する変換、一次変換 は原点まわりに 回転する変換とする。次の問いに答えなさい。
(1) を表す行列を求めなさい。
(2) による点 の像を、2 段階に分けた計算と、(1) の行列を使った計算の 2 通りで求めなさい。
(3) を表す行列と、 による点 の像を求めなさい。
【解答】
(1) , です。先にはたらく を右に置きます。
(2) 2 段階で追いかけます。
(1) の行列を一度かけても同じです。
(3) 今度は が先なので、 を右に置きます。
この 2 つの行列は、第 7 章 j16 で「一致しない 2 つの積」として計算したものです。あのときは成分が違うという計算結果でしたが、いまは意味がついています。横に伸ばしてから回すのと回してから横に伸ばすのとでは、別の動きなのです。
例題1 でさっそく見えたとおり、合成は順番を変えると別物になります。行列の積が交換できないことは第 2 章でくどく確かめましたが、その正体がこれでした。 は計算の都合ではなく、操作の順序が結果を変えるという当たり前の事実を写したものだったのです。
コーヒーに砂糖を入れてからかき混ぜるのと、かき混ぜてから砂糖を入れるのとでは、カップの中身が違います。世の中の操作は、たいてい順番に敏感です。むしろ回転どうしのように順番を入れかえても同じになるほうが、特別な事情のある仲間だと考えるべきでしょう。
いっぽう、成り立つ法則もあります。
一次変換 ,, を表す行列をそれぞれ ,, とする。
(1) 結合法則 (表す行列はどちらも )。3 つ以上の合成は、まとめ方を気にせず左から順に行列を並べればよい。
(2) 交換できるとは限らない 一般に 。
(3) 恒等変換 すべての点を動かさない変換を恒等変換といい、 と書く。表す行列は単位行列 で、任意の に対し
(4) 行列式 (第 3 章 teigi 定理3 の )。
(4) は地味に見えて、よく効きます。回転の行列式は 、対称移動の行列式は でした(第 7 章)。行列式は積になるのですから、裏返しを含む変換をいくつ合成したかが、 の符号に記録されることになります。対称移動を 2 回合成すれば で表に戻り、3 回なら で裏のまま。合成した結果の行列を書き下さなくても、符号だけは即座に分かります。
の絶対値のほうは「面積が何倍になるか」を表しています。これは第 9 章で証明しますが、そう思って (4) を読むと「 倍に広げる変換と 倍に広げる変換を続ければ 倍」という、ごく自然な話に見えてきます。
合成は順番を入れかえられないが、まとめ方は自由(結合法則)で、恒等変換 は行列の にあたり、合成の行列式はもとの行列式の積になるということです。
一次変換 は直線 に関する対称移動、 は原点まわりの 回転、 は原点を中心とする 倍の拡大とする。次の問いに答えなさい。
(1) を表す行列を求め、それがどんな変換かを答えなさい。
(2) を表す行列を、 と の 2 通りで計算し、一致することを確かめなさい。
(3) の行列式を、公式2 (4) と直接計算の 2 通りで求めなさい。
【解答】
,, です。
(1)
第 7 章 公式3 の表と見比べると、これは です。折り返してから回したら、別の直線での折り返しになりました。
(2) から。 なので
のほうは、(1) の を使って
一致しました。どちらも です。
(3) 公式2 (4) より、,, なので
直接計算しても で同じです。符号が負なので、この合成は裏返しを奇数回含んでいます(対称移動 1 回ぶん)。絶対値 は「面積が 倍になる」という意味です(第 9 章)。
次は逆向きの話です。一次変換 で動かした点を、もとの位置に引き戻す変換はあるでしょうか。
あるとすれば、それは「 を打ち消す変換」、つまり と合成したときに恒等変換になるものです。
一次変換 に対し
をみたす一次変換 を、 の逆変換といい と書く。
を表す行列を とすると、逆変換が存在するのは が正則なとき、すなわち
のときに限り、そのとき を表す行列は逆行列 である。 のとき、 は逆変換をもたない。
理由は、そのまま公式1 から出ます。 を表す行列を とすると、 は と書けます。これをみたす が存在することと が正則であることは、第 3 章でまさに調べたことでした。そして です。
第 6 章では、移った先から移る前をさがす計算を原像と呼びました。逆変換は、その「さがす」作業を変換として名づけ直したものです。 なら原像はいつでもただ 1 つに決まるので、「像 原像」という対応そのものが、点を点に移す立派な規則になっている。これが です。
翻訳を思い浮かべてください。日本語を英語に訳し、その英語をまた日本語に訳し戻すと、もとの文に近いものが返ってきます。ところが、同じ文章を要約してしまうと、もう戻せません。落とした情報は取り返しがつかないからです。一次変換も同じで、 の変換は情報を落とさないので戻せますが、 の変換は平面全体を 1 本の直線(または原点だけ)に押しつぶしてしまう。つぶれた先の 1 点には、もとの点が無数に重なっています。どれが出発点だったかを決めようがないので、逆変換は存在しません。
逆変換は と合成して恒等変換になる変換で、 のときにだけ存在し、表す行列は だということです。
次の問いに答えなさい。
(1) 行列 が表す一次変換 の逆変換 を表す行列を求めなさい。
(2) によって点 に移る点を求めなさい。
(3) 行列 が表す一次変換は逆変換をもたないことを示し、その理由を変換の言葉で説明しなさい。
【解答】
(1) なので正則です。第 3 章の公式より
(2) 求める点は の原像、すなわち による の像です。
検算します。。たしかに に移ります。
(3) なので は正則でなく、公式3 より逆変換は存在しません。
変換として何が起きているかを見ます。点 の像は
どの点の像も、ベクトル の実数倍です。つまり平面全体が直線 の上につぶれています。たとえば をみたす点、 も も も、すべて同じ点 に移る。行き先だけ渡されても、どこから来たかを決めることはできません。
合成変換にも逆変換があります。「 をしてから をした」を取り消すには、どうすればよいでしょうか。
新宿から東京へ行き、東京から成田へ行ったとします。帰り道は、成田から東京へ戻り、そこから新宿へ戻る。後から行った区間を、先に逆にたどるわけです。
, がともに逆変換をもつとき、次が成り立つ。
行列で書けば (第 3 章 公式)で、順序が入れかわる。一般に である。
証明は 1 行です。 を結合法則でまとめ直すと、真ん中の が に消え、残った もまた になります。内側から順にほどけていく感じです。
第 3 章で を証明したときは、成分でも法則でもなく「逆行列の定義をみたすことを確かめる」という形でした。いま同じ式が、帰り道の順番という意味をもって戻ってきたことになります。
合成の逆変換は、後にした変換から先に取り消していくので、 と の順番が入れかわるということです。
一次変換 , を表す行列を、それぞれ , とする。次の問いに答えなさい。
(1) , を求めなさい。
(2) を表す行列と、 を表す行列を求めなさい。
(3) (2) の答えが と一致し、 とは一致しないことを確かめなさい。
【解答】
(1) , なので
(2) を表す行列は です。
行列式は なので
(3)
(2) の と一致します。順番を守らないとどうなるかも見ておきます。
とは別の行列です。ためしにこれを にかけてみると
で、たしかに打ち消せていません。
第 7 章では という等式を、成分を計算した結果としてだけ示しました。意味づけは第 8 章に回す、と断ってあったところです。いま公式1 があるので、堂々と読み替えられます。 回してから 回すという合成が、 の回転に等しい。 当たり前の事実が、行列の等式として書けたことになります。
同じ目で、対称移動も見てみましょう。
原点まわりの角 の回転を 、原点を通り 軸と角 をなす直線に関する対称移動を と書く(表す行列は第 7 章の ,)。
すなわち、回転どうしの合成は回転、対称移動どうしの合成は回転、回転と対称移動の合成は対称移動になる。
3 つめの は、折り紙で説明がつきます。同じ折り目でもう一度折り返せば、紙はもとの位置に戻る。だから対称移動の逆変換は自分自身です。これは行列でいえば 、つまり ということで、逆行列を計算する必要がありません。
4 つめの は、第 7 章 j18 で成分計算をした式です。2 枚の鏡で続けて折り返すと、結果は回転になる。しかも回転角は2 直線のなす角の 2 倍です。行列式でも筋が通ります。 で、裏返しを 2 回すれば表に戻るからです。
最後の 2 式は、回転と対称移動を混ぜると必ず対称移動になる、と言っています。 で見れば なので、対称移動になること自体は符号から予想がついていました。式のほうは、たとえば の行列 の 成分を計算すると
となり、ほかの成分も同じように加法定理でまとまって の形になる、という具合に確かめられます。回転角 の半分だけ、折り目が回ると覚えると扱いやすいでしょう。
回転と対称移動は合成しても回転か対称移動にしかならず、どちらになるかは行列式の符号で決まるということです。
次の問いに答えなさい。
(1) 軸に関する対称移動を行ったあと、直線 に関する対称移動を行う合成変換を表す行列を求め、それがどんな変換かを答えなさい。
(2) (1) の 2 つを逆の順で行った合成変換について、同じことを調べなさい。
(3) 原点まわりに 回転したあと、直線 に関する対称移動を行う合成変換は、どんな変換か答えなさい。
【解答】
(1) 軸は 、直線 は です。先にはたらく を右に置きます。
これは です。公式5 の と合っています。
(2) 順番を入れかえます。
です。。折り返す鏡の順序を変えると、回る向きが逆になります。
(3) 先が回転 、後が なので、 を左に置きます。
公式5 の で確かめると 、たしかに 軸です。回転してから折り返したのに、結果はただの折り返し 1 回で済んでしまう。回転のぶんは、折り目の角度に吸収されたことになります。
合成の特別な場合として、同じ変換を何度も続けることを考えます。 を 回合成したものを と書けば、表す行列は です。第 5 章でさんざん計算した は、同じ動きを 回繰り返した結果を表していたことになります。
とくに第 7 章 公式5 の の形なら、繰り返しの答えがすぐ書けます。
一次変換 (表す行列 )を 回合成した変換を と書くと、 を表す行列は である。 が逆変換をもつとき で、表す行列は 。
とくに ()のとき
で、 は「 回転して 倍に拡大する」変換になる。
なら、点は回りながら外へ広がっていきます。 なら内へ吸い込まれ、 なら円周上をぐるぐる回るだけ。第 7 章でうず巻きの話をしたのは、この繰り返しのことでした。
同じ変換の繰り返しは行列の累乗にあたり、回転と拡大の形なら角を 倍・倍率を 乗するだけで答えが出るということです。
が表す一次変換を とする。次の問いに答えなさい。
(1) を の形に表しなさい。
(2) を表す行列を求めなさい。
(3) 点 に を 8 回続けて行ったときの行き先を求めなさい。
【解答】
(1) の形で です。、 より 。
(2) 角は 倍、倍率は 乗です。
(3) です。
回で 、ちょうど 1 周して向きがもとに戻り、距離だけが 倍になりました。1 回ごとに 回りながら 倍ずつ遠ざかるので、点の通った跡はうず巻きを描きます。
ここまでは部品を組み立てる向きでした。逆に、与えられた行列を、基本的な変換の合成に分解することもできます。行列の正体を見抜く手段として役に立ちます。
たとえば は、成分を眺めても何をする変換なのか分かりません。ところが
と書けることに気づけば、「 回してから、横に 倍・縦に 倍に伸ばす」という 2 段階の動きだと分かります。
ここで注意が要ります。分解のしかたは1 通りではありません。同じ行列を「先に伸ばしてから回す」形に書き直すこともできますが、そのとき伸ばす倍率は入れかわります。合成は順番に敏感なので、当然といえば当然です。
が表す一次変換を とする。次の問いに答えなさい。
(1) が「原点まわりに 回転したあと、 軸方向に 倍、 軸方向に 倍する」変換であるとき、, を定めなさい。
(2) が「 軸方向に 倍、 軸方向に 倍したあと、原点まわりに 回転する」変換でもあることを示し、, を定めなさい。
(3) が図形を裏返すかどうかを答えなさい。
【解答】
(1) 後からはたらく伸縮を左に書きます。
これが と等しいので、成分を比べて 。
(2) 今度は回転を左に書きます。
と成分を比べて 。たしかにこの形にも書けました。
(1) では「横に 倍、縦に 倍」だったのに、(2) では「横に 倍、縦に 倍」。倍率が入れかわっています。 回転が縦と横を取りかえてしまうので、伸ばす順番を変えると、伸ばす向きの役割も変わるのです。
(3) なので 。
回転()と伸縮()の合成なので、公式2 (4) からも が分かります。裏返すには、対称移動のように の部品が奇数個いるのでした。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
一次変換 を 軸に関する対称移動、 を原点まわりの 回転とするとき、合成変換 を表す行列を求めなさい。
(。直線 に関する対称移動になる)
問2
行列 が表す一次変換 の逆変換 を表す行列を求めなさい。
()
問3
原点まわりに 回転したあと、さらに 回転する合成変換を表す行列を求めなさい。
(角が足される)
問4
直線 に関する対称移動を とするとき、 を表す行列を求めなさい。
(同じ折り目で 2 回折り返せばもとに戻る)
問5
行列 が表す一次変換に逆変換があるかどうかを定めなさい。
ない( で正則でないため)
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
一次変換 , を表す行列を、それぞれ , とする。 を表す行列と を表す行列を、それぞれ求めなさい。
:、:
公式1 のとおり、先にはたらくほうを右に置きます。 を表す行列は です。
を表す行列は です。
2 つは一致しません。合成の順番が違えば別の変換だということです。なお行列式はどちらも で、, と合っています。順番を変えても行列式だけは同じになるところは、覚えておくと検算に使えます。
問2 ★
原点まわりに 回転したあと、さらに 回転する合成変換を とする。 を表す行列と、 による点 の像を求めなさい。
、像は点
公式5 より です。
や の値を知らなくても答えが出ました。角を足してから行列を書くのが要領です。像の検算は距離と向きで。 も も原点からの距離は で、 回った位置にあります。
問3 ★
次の 3 つの行列
(1) (2) (3)
について、それが表す一次変換の逆変換を表す行列をそれぞれ求めなさい。
(1) (2) (3)
公式3 より、逆変換を表す行列は逆行列です。
(1) なので 。
(2) なので 。
(3) 回転の逆変換は逆向きの回転です(公式5)。逆行列の公式を使う必要はありません。
検算は で。(1) なら です。
問4 ★
行列 が表す一次変換 によって点 に移る点を、逆変換を使って求めなさい。
点
なので逆変換があります。
求める点は による点 の像です。
検算します。 でたしかに移ります。第 6 章では同じ計算を「原像を求める」と呼びました。逆変換という名前がついたことで、 以外の点についても同じ行列で一気に引き戻せることがはっきりします。
問5 ★
直線 に関する対称移動を とする。 を表す行列を求め、 が恒等変換になることを計算で確かめなさい。
。2 乗すると になる。
が 軸となす角を とすると です。公式3(第 7 章)に必要なのは なので、2 倍角の公式を使います。
2 乗します。 の成分は
同じ折り目でもう一度折り返せば、紙はもとに戻ります(公式5)。この事実は、対称移動の逆変換が自分自身であること と同じ意味です。
問6 ★
次の 4 つの行列
(1) (2) (3) (4)
が表す一次変換のうち、逆変換をもつものをすべて選び、その理由を示しなさい。
(2) と (3)。理由は ((2) は 、(3) は )。(1) と (4) は なので逆変換をもたない。
公式3 より、逆変換をもつかどうかは行列式だけで決まります。
(1) 。もたない。
(2) 。もつ。
(3) 回転の行列式はいつでも です(第 7 章 公式2)。もつ。逆変換は 。
(4) 。もたない。
の (1) と (4) は、2 つの列がそれぞれ平行になっている点が共通しています((1) は 、(4) は )。基本ベクトルの行き先が同じ向きなので、平面全体が 1 本の直線につぶれてしまいます。
問7 ★
一次変換 を原点を中心とする 倍の拡大、 を原点まわりの 回転、 を 軸に関する対称移動とする。 を表す行列を求め、それがどんな変換かを定めなさい。
。直線 に関する対称移動をしてから 倍に拡大する変換。
それぞれ ,, です。先にはたらく順に右から並べるので、求める行列は 。結合法則(公式2)よりどこから計算してもかまいません。
なので、直線 に関する対称移動と 倍の拡大を合わせたものです。 で、符号が負なのは対称移動を 1 回含むから、絶対値が なのは縦にも横にも 倍したからです。
問8 ★
一次変換 を 回転、 を直線 に関する対称移動、 を原点を中心とする 倍の拡大、 を 軸方向に 倍する変換とする。合成変換 の行列式を求め、この合成が図形を裏返すかどうかを定めなさい。
。負なので裏返す。
公式2 (4) より、合成の行列式はもとの行列式の積です。1 つずつ書き出します。
行列をかけ合わせなくても、符号と倍率だけならこれで分かります。裏返すかどうかを決めているのは ひとつだけで、 の部品が奇数個あるので全体は裏返します。絶対値 は面積が 倍になることを表しています(第 9 章)。
問9 ★★
一次変換 を表す行列を 、 を原点まわりの 回転とする。 と を表す行列をそれぞれ求め、点 の像がそれぞれどうなるかを求めなさい。
:、像は点 。:、像は点 。
(せん断)、 です。
点 の像は
2 段階で追ってみると違いが見えます。 では、まずせん断で と右へずれ、そのあと回転で へ。 では、まず回転で と移り、そのあとせん断で へ。せん断が「横へずらす」変換である以上、回すタイミングで何が横なのかが変わってしまうわけです。
なお行列式はどちらも です。順番を変えても が変わらないことは j01 でも見ました。 が一致しても行列が一致するとは限りません。
問10 ★★
一次変換 , を表す行列を , とする。 を表す行列を求め、それが と一致することを確かめなさい。
。 と一致する。
まず を表す行列 を求めます。
なので
いっぽう , より , です。
一致しました(公式4)。後からはたらいた を先に取り消すので、 が右に来ます。帰り道は、最後に通った区間から逆にたどるのでした。
問11 ★★
一次変換 を 軸に関する対称移動、 を原点まわりの 回転とする。 と を表す行列を求め、それぞれがどんな変換かを定めなさい。
: で、直線 に関する対称移動。: で、直線 に関する対称移動。
, です。
なので対称移動です。, より 、。 なので、直線 に関する対称移動です。
こちらは 、 で、直線 に関する対称移動になります。
公式5 と照らし合わせます。、。どちらも合っています。折り目は回転角の半分だけ動くのでした。
問12 ★★
原点を通る 2 直線 , に関する対称移動をそれぞれ , とする。 が原点まわりの の回転であるとき、 と のなす角を求めなさい。また が 軸であるとき、 の方程式を求めなさい。
なす角は 。 が 軸なら 。
, が 軸となす角をそれぞれ , とすると、公式5 より
これが の回転なので 、つまり 。2 直線のなす角は です。
回転角は、なす角の 2 倍。ここを取り違えて と答えてしまうのが定番の誤りです。
が 軸なら なので 。 より です。確かめます。
問13 ★★
一次変換 を表す行列を とする。 を 回合成した を表す行列、 を表す行列、 を表す行列をそれぞれ求めなさい。
、、
まず を計算します。
左下だけが ずつ増えていきます。 と推測して、数学的帰納法で確かめます。 で成り立つとすると
で でも成り立ちます。
なので 。公式6 より なので、同じ推測が でも使えて です。
この は 軸を動かさず、横の位置 に比例して縦へずらすせん断です(第 7 章 公式4 の を縦横入れかえた形)。 回繰り返せばずれも 倍、逆変換は同じだけ逆向きにずらす変換。図で考えれば計算するまでもない答えでした。
問14 ★★
行列 が表す一次変換 は、「直線 に関する対称移動を行ったあと、 軸方向に 倍、 軸方向に 倍する」変換である。, を定め、 が図形を裏返すかどうかと、面積が何倍になるかを求めなさい。
,。 なので裏返し、面積は 倍になる。
後からはたらく伸縮を左に書きます(公式1)。
これが と等しいので、成分を比べて , です。
行列式は公式2 (4) から 。直接計算しても で同じです。符号が負なので裏返し、絶対値が なので面積は 倍になります。
の成分をいくら眺めても動きは見えませんが、「折り返してから伸ばす」と分解できれば一目で分かります。分解は、行列の正体を読むための道具です。
問15 ★★
一次変換 を表す行列を 、 を原点まわりの 回転とする。合成変換 によって点 に移る点を求めなさい。
点
を表す行列を作ります。公式4 より です。
の行列式は なので
の逆行列は (公式5)。
検算します。 を で移すと 、それを 回すと 。たしかに に移ります。
を計算してから逆行列を求めても同じ答えになりますが、 が とすぐ書ける以上、公式4 を使うほうが手間が少なくて済みます。
問16 ★★
一次変換 を 軸に関する対称移動、 を直線 に関する対称移動とする。 を表す行列を求めてどんな変換かを定め、さらに を繰り返して恒等変換に戻るまでの回数を求めなさい。
で、原点まわりの の回転。 回で恒等変換に戻る。
が 軸となす角は です。 です。
公式5 の と合っています。 の回転は 回で になるので、。 回です。
これが万華鏡の仕組みです。 に開いた 2 枚の鏡の間に置いたものは、折り返しを繰り返すたびに ずつ回った位置に像を作り、 周目でもとに重なります。第 7 章 j18 で数えた「 枚の像」はこの回転による像で、実際の万華鏡では、その一枚おきが裏返しの像になっているため、見えるのは全部で 枚です。正六角形を自分自身に重ねる動きが 通りあることと同じ勘定になります(第 7 章 teigi の二面体群)。
問17 ★★★
をみたす一次変換 を表す行列 を、すべて求めなさい。
、、または かつ をみたす行列(すなわち で )。
条件は です。ケーリー・ハミルトンの定理(第 5 章)より
を代入して整理します。
(i) のとき より となり、 は の形です。 から 、すなわち または 。
(ii) のとき の左辺が なので 、つまり です。逆に かつ なら、ケーリー・ハミルトンの定理は 、すなわち となって条件をみたします。
のとき なので、条件は と書けます。
幾何的に読んでみましょう。 は恒等変換、 は 回転。残りは ですから裏返す変換で、たとえば ( 軸に関する対称移動)や (直線 に関する対称移動)がこの形です。対称移動 はすべて対角和 、行列式 なので、たしかに (ii) に含まれます。
ただし (ii) はもう少し広く、 のように長さを保たないものも入ります。これは直線 に関する「斜めの折り返し」で、鏡に垂直ではない向きへ折り返すような変換です。2 回行えばもとに戻るという性質だけを取り出すと、まっすぐな鏡とは限らない、ということになります。
問18 ★★★
一次変換 , について が成り立つならば、 も成り立つことを示しなさい。
から なので 。よって が存在し、。したがって 、すなわち 。
, を表す行列を , とすると、仮定は です。
第 1 段: が正則であることを示す。 行列式は積を保つので(第 3 章 teigi 定理3)
積が なのですから です。よって が存在します。
第 2 段: の正体を突きとめる。 を右からかけます。
第 3 段: なので 。(証明終)
当たり前に見えるかもしれませんが、そうでもありません。一般の写像では「片方だけ打ち消せる」ことが起こります。たとえば実数に対して「 乗する」写像 と「正の平方根を取る」写像 を考えると、 は恒等ですが、 は を に変えてしまい恒等ではありません。
一次変換では、そういうことが起きない。その理由が上の証明の第 1 段、行列式が積を保つという事実です。片側だけ打ち消せれば、反対側も自動的に打ち消せる。 逆変換をさがすとき、 と の両方を確かめる必要はない、という実用上の意味もあります。
問19 ★★★
行列 が表す一次変換 を、「(,)が表す変換を行ったあと、原点まわりに 回転する」変換として表しなさい。
, の回転と の合成。すなわち 。
求めるのは ()をみたす ,,, です。手がかりは列が基本ベクトルの像であること(第 6 章 公式4)。
第 1 列から と を決める。 両辺の第 1 列を比べます。 の第 1 列は なので、右辺の第 1 列は
これが の第 1 列 と等しい。長さを比べて 、向きから
つまり です。
第 2 列から と を決める。 なので、両辺に を左からかけます(公式5)。
, で、条件の もみたしています。確かめます。
行列式でも合っています。 で、。
は、さらに と分けられます。伸縮とせん断です。つまり は「せん断 → 伸縮 → 回転」の 3 段階に分解できたことになります。この手順は正則な行列ならいつでも使えて、大学では QR 分解と呼ばれます。どんな一次変換も、ずらして・伸ばして・回すだけで作れるということです。
問20 ★★★
原点を通り 軸とそれぞれ ,, をなす 3 直線に関する対称移動を ,, とする。合成変換 が対称移動であることを示し、その直線が 軸となす角を求めなさい。
。 軸となす角は 。
公式5 を 2 度使います。結合法則(公式2)により、どこからまとめてもかまいません。
第 1 段:はじめの 2 つをまとめる。 後ろの 2 つ、つまり先にはたらく とそのあとの を合成すると
回転になります。行列式で見れば で、裏返しが 2 回で表に戻ったところです。
第 2 段:残りを合成する。 公式5 の を、いま得た回転と に……と進めたいところですが、順序に注意します。残っているのは「 を行ったあとに を行う」ので、使うのは のほうです。
対称移動になりました。折り目が 軸となす角は です。(証明終)
行列式だけでも、結果が対称移動だと予想できます。 ですから、3 枚の鏡を通した像は裏返ったまま。裏返す変換は対称移動しかない(第 7 章 j19)ので、1 枚の鏡で済んでしまうわけです。
試しに ,, とすると、答えは 。3 枚の鏡で折り返した結果が、直線 1 枚での折り返しと同じになります。原点を動かさない「裏返す動き」は、どれだけ重ねても対称移動 1 回に縮む。 第 7 章の厳密定義で の元が回転か鏡映しかないと述べたのは、このことでした。
飲み会の席順でも、掃除当番決めでも、あみだくじはよく登場します。縦線を何本か引き、横棒をでたらめに足して、上から辿って下に着く。あの遊びの正体は、じつは行列です。
人の並びを、縦に並べた数の組で表してみましょう。上の位置にいる人を ,, とします。あみだくじは並びを入れかえるだけですから、結果もまた同じ 3 つの数の並びかえです。たとえば「 番目と 番目を入れかえる」動きは
をかけることにあたります。各行・各列に がちょうど つだけ、残りは 。こういう行列を置換行列といいます。横棒 本が、置換行列 つです。
ここから先は、この章でやったことがそのまま使えます。
横棒を何本も引くこと=行列の積。 あみだくじを上から順に辿るのは、置換行列を次々にかけていくことです。2 本のあみだくじを縦につなげるのは、それぞれの行列をかけ合わせること。
下から辿ること=逆変換。 「当たりを引いたのは誰か」を知りたいときは、下から上へ辿ります。これは逆行列をかけることで、置換行列の逆行列は転置行列(第 7 章の厳密定義)そのものです。 を左右に折り返すだけで逆が求まる、とても行儀のよい行列なのです。ちなみに置換行列は、第 7 章で出てきた直交行列の仲間でもあります。
そして、いちばん面白いのが行列式です。横棒 本ぶんの置換行列は、2 つの行を入れかえた形なので行列式が 。したがって横棒を 本引いたあみだくじの行列式は になります。ところが、行列式は行列そのものから決まる量です。ということは——
同じ結果になるあみだくじは、横棒の本数の偶奇が必ず一致する。
横棒を 本使って作った並びかえを、 本や 本で作ることはできません。 本や 本ならできます。線をどれだけ増やしても減らしても、偶奇だけは変えられない。この不変量が、数学では置換の符号と呼ばれるものです。
同じ議論が、ほかの遊びにも効きます。 パズル( の枠に 枚のこまを並べ、空きマスを使って動かすパズル)で、最後の 枚だけを入れかえた配置には、けっして到達できません。 手が 回の入れかえに対応するので、符号が合わないのです。1880 年ごろ、サム・ロイドがこの「不可能な配置」に懸賞金をかけて評判になったと言われます(※諸説あり)。ルービックキューブで、角のキューブ つだけを入れかえた状態が作れないのも、根は同じ話です。
豆知識
「あみだ」は阿弥陀如来のこと。もとは中央から放射状に線を引いて、その形が阿弥陀の後光に似ていたことからこの名がついた、と言われます(※諸説あり)。いまのはしご形になったのは後の時代で、下を隠して選ばせる形式もそのころに広まったようです。
1990 年 4 月、ハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられました。大気のゆらぎのない宇宙から星を見る、天文学の悲願です。ところが最初に届いた画像は、どれもぼんやりとにじんでいました。
原因は主鏡でした。研磨に使う測定器の部品が ミリずれて取りつけられており、そのぶん鏡の縁が削られすぎていたのです。誤差はおよそ マイクロメートル。髪の毛の太さの 分の ほどの狂いで、 億ドルの望遠鏡がピンぼけになりました。
修理のためのシャトル打ち上げは 年先。それまでの間、科学者たちは計算で画像を直そうとしました。ここで登場するのが逆変換です。
ぼけは、数学的にはとても素直な現象です。1 つの点から届いた光が、まわりの画素へ決まった割合で散らばる。散らばり方は場所によらず同じで、しかも「 つの星の光が重なったら、ぼけた像も重なる」という線形性が成り立ちます。つまりぼけは一次変換です。画素の明るさを並べた長大なベクトルに、ある行列 をかける操作にほかなりません。
ならば話は簡単に思えます。 をかければ、もとの像が戻るはずです。実際この考え方はデコンボリューションと呼ばれ、広く使われています。
ところが、やってみると画像は砂嵐になります。
理由は、 が ではないものの、 に非常に近いからです。ぼけは情報を完全に捨てはしないけれど、細かい模様をほとんど消してしまう。「ほとんどつぶれた」変換を無理に引き戻すと、もとの像に混じっていたごくわずかな観測ノイズまで、いっしょに何百倍にも拡大されてしまうのです。
逆行列が存在することと、実際に戻せることは、別の問題だった。
数値計算の世界では、この危なさを条件数という尺度ではかります。 でも条件数が大きい行列は「悪条件」と呼ばれ、計算の途中の小さな誤差が答えを壊します。ハッブルの画像復元では、ノイズを暴れさせないように工夫した反復的な手法(リチャードソン・ルーシー法など)が使われ、修理までの 3 年間、望遠鏡は科学的な成果を出し続けました。1993 年 12 月、宇宙飛行士が補正光学系を取りつけ、ハッブルはようやく本来の視力を手に入れます。
いまスマートフォンで撮った写真の手ぶれ補正や、監視カメラ映像の鮮明化にも、同じ「ぼけの逆をかける」計算が入っています。うまく効くときと、ぐにゃぐにゃになるときがあるのは、この条件数と戦っているからです。
豆知識
の値そのものは、実は条件のよしあしをあまり教えてくれません。 は と極端に小さいのに、ただの縮小なので逆にするのは簡単です。危ないのは「ある方向にはほとんどつぶれ、別の方向には普通」という、伸び方の偏った変換のほうなのです。
アニメーションの制作では、動きの要所だけを描き、その間をコンピュータに埋めさせます。これを中割りといいます。第 1 章で、2 枚の画像を と混ぜてなめらかに切り替える話をしました。 を から へ動かせば、 の絵が の絵へじわりと変わっていく。画像どうしなら、これでうまくいきます。
では、回転でも同じことをしてみましょう。 の状態から 回った状態へ、なめらかにつなぎたい。ちょうど中間の で、2 つの行列を混ぜてみます。
行列式を計算すると 。 ではありません。 第 7 章 公式5 の形に直すと で、向きこそ と正しいものの、図形が 倍に縮んでいます。中割りのつもりが、途中で絵が痩せてしまうのです。
もっとひどい例もあります。 と の真ん中を同じやり方で作ると
零行列。すべての点が原点に吸い込まれ、絵が消えます。
何が起きたのでしょうか。回転を表す行列の集まりは、足し算について閉じていないのです。回転どうしを足しても回転にはならない。回転が住んでいるのは積の世界、つまりこの章で扱った合成の世界です。 という等式をよく見てください。足し算が現れるのは、行列ではなく角のほうです。
正しい中割りは、行列ではなく角を混ぜることです。
これなら行列式はいつでも で、絵は縮みません。
平面ならこれで済みますが、立体になると角の混ぜ方が一筋縄ではいかなくなります。そこで使われるのが球面線形補間(SLERP)で、第 7 章の小話に出てきた四元数の出番です。回転を四元数で表しておき、単位球面上の最短経路をなぞって補間する。3D ゲームでキャラクターの首が自然に回るのは、この計算のおかげです。
逆に、行列をそのまま混ぜる手抜きが引き起こす有名な不具合もあります。キャラクターの腕をひねったとき、肘のあたりが飴の包み紙のようにくびれてしまう現象で、業界では「キャンディ・ラッパー」と呼ばれています。2 つの回転行列を平均したせいで、 が より小さくなり、肉が痩せているのです。
豆知識
第 1 章の画像の混ぜ合わせがうまくいったのは、明るさの表が足し算の世界の住人だったからです。同じ「行列」という名前でも、何を表しているかで許される演算が変わります。表を表す行列は足してよく、動きを表す行列は掛けるもの。行列を見たら、まず「これは表か、動きか」と問うてみてください。
※ここは発展ページです。高校の範囲では「合成は積 、逆変換は 、あるのは のとき」が使えれば十分ですが、実践 j18 で示した「片方だけ打ち消せれば反対側も打ち消せる」がなぜ成り立つのか、j19 の分解がどこまで一般化するのか、そして「逆変換がある」という言葉を写像の言葉で言い直すとどうなるのかが気になる人のために、少し厳密な形にまとめておきます。第 3 章の厳密定義(群と一般線型群 )、第 4 章の厳密定義(核と階数)、第 6 章の厳密定義(線形写像と表現行列・次元定理)を前提にします。
本文では合成と逆変換を、行列の積と逆行列にすぐ翻訳して扱いました。ここでは逆に、行列をいったん忘れて写像として定義し、あとから行列が戻ってくるという順で組み立て直します。そうすると、2 次でも 次でも変わらない骨組みが見えてきます。
集合 ,, と写像 , に対し、 に を対応させる写像 を と の合成写像といい、 と書く。
また、 の各元をそれ自身に対応させる写像 を恒等写像といい、(誤解のないときは )と書く。
合成はいつでも結合法則をみたす。写像 ,, に対し、任意の で
が成り立つからである。本文の公式2 (1) は、この一般論の特別な場合にすぎない。行列の積の結合法則(第 2 章 teigi 定理1)は二重和の順序交換を要する計算だったが、写像の合成の結合法則は定義を書き下すだけで終わる。むしろ「積の結合法則が成り立つのは、積が合成だったからだ」と読むのが筋である。
写像 について
という。 かつ をみたす写像 が存在するとき、 は可逆であるといい、 を の逆写像といって と書く。 が可逆であることと全単射であることは同値であり、逆写像は存在すれば 1 つに限る。
単射は「行き先が衝突しない」、全射は「行き先に取りこぼしがない」ことである。本文で の一次変換が逆変換をもたない理由を 2 通りに説明したが(無数の点が 1 点に重なる/像に届かない点がある)、前者は単射でないこと、後者は全射でないことを言っていた。
一意性を確かめておく。, がともに の逆写像なら
第 3 章 teigi で逆行列の一意性を示したときと、まったく同じ形の議論である。
, をともに線形写像とすると、合成 も線形写像である。さらに、標準基底に関する , の表現行列をそれぞれ ()、()とすると、 の表現行列は である。
証明 線形性は定義の確認による。任意の と実数 に対し
で加法性と斉次性をみたす。表現行列については、第 6 章 teigi 定理1(表現行列の一意性)より、基本ベクトルの像を調べれば十分である。
すなわち の表現行列の第 列は の第 列に等しい。(証明終)
第 2 章 teigi 定理2 では「積は写像の合成である」を、行列をかける写像 について述べた。定理1 はその逆向きで、先に線形写像があり、その表現行列として積が現れるという順になっている。行列の積をあの奇妙な規則で定めた理由は、結局これに尽きる。合成の表現行列があの形だからである。
を線形写像、 をその表現行列( 次正方行列)とする。次の 5 つは同値である。
証明の概略 : は線形性より と同値なので、単射であることと核が だけであることは同値。
:次元定理(第 6 章 teigi) による。単射なら より で、 の 次元部分空間は 自身しかないから全射。逆も同じ式を逆にたどればよい。
:定義2。
: は同次連立一次方程式 が自明解しかもたないことで、これは 、すなわち と同値(第 4 章 teigi)。(証明終)
は、よく見ると奇妙な主張である。一般の写像では、単射だが全射でないもの(整数に を対応させる写像)も、全射だが単射でないもの(整数に を対応させる写像)も、いくらでもある。ところが同じ次元の空間のあいだの線形写像では、片方を仮定すれば他方が自動的についてくる。
理由は次元定理にある。線形写像は「つぶした次元のぶんだけ、像の次元が足りなくなる」という保存則に縛られていて、行き先を余らせながら重複なく写す、といった器用なまねができない。有限次元だからこその性質で、無限次元では成り立たない。
, を 次正方行列とする。 ならば であり、 である。
証明 より だから が存在する。 の両辺に右から をかけて 。よって 。(証明終)
実践 j18 の 次版である。行列式を使わずに定理2 から示すこともできる。 なら は単射( の両辺に左から をかければ )なので、定理2 より は可逆、というわけである。こちらの筋なら、行列式の定義されない一般の線形空間へも持ち込める。
大事なのは、この定理が有限次元でしか成り立たないことである。第 6 章 teigi では、多項式全体のような無限次元の空間でも微分 が線形写像になることを見た。ここに不定積分 を持ち込むと
が微分積分学の基本定理そのものとして成り立つ。ところが逆向きは
で、定数項が消えてしまうため ではない。 は全射だが単射でなく、 は単射だが全射でない。無限次元では、定理2 の も定理3 も崩れる。「片側を打ち消せば十分」という感覚は、次元が有限であることに支えられた贅沢なのである。
次の正則行列全体の集合
は行列の積について群をなす(第 3 章 teigi 定義2)。このうち行列式が であるもの全体
を特殊線型群という。
正則でない行列も含めた 全体は、積について結合法則と単位元をもつ(このような構造をモノイドという)が、逆元が足りないので群にはならない。合成はいつでもできるが、取り消しはいつもできるとは限らない。本文で の変換に逆変換がなかったことの、代数的な言い方である。
写像 ( は でない実数全体がかけ算について作る群)は群の準同型である。すなわち
その核 は の正規部分群であり、
が成り立つ。
証明の概略 準同型であることは第 3 章 teigi 定理3。核が正規部分群であることは、任意の と に対し から従う。同型は準同型定理による。(証明終)
本文の公式2 (4) は、この準同型性を変換の言葉で述べたものだった。 は、合成という複雑な演算をただのかけ算に翻訳する装置である。そして翻訳の途中で捨てられる情報が 、つまり「面積も向きも変えない変換」の全体にあたる。
第 7 章では直交群 と特殊直交群 を扱った。関係を並べておく。
は「長さを保つ」、 は「面積(体積)と向きを保つ」。前者のほうが強い条件である。
実践 j19 では、与えられた行列を「回転 上三角行列」に分けた。これは一般に成り立つ。
を 次正則行列とすると
をみたす直交行列 と、対角成分がすべて正である上三角行列 が、ただ 1 組だけ存在する。
証明の概略 の列ベクトルを とする。 が正則なのでこれらは 1 次独立であり、グラム・シュミットの直交化を施すと、各 について の張る空間と同じ空間を張る正規直交系 が作れる。作り方から
と書けるので、、( のとき )とおけば である。一意性は、 から が直交行列かつ対角成分が正の上三角行列になることを示し、そのような行列が しかないことによる。(証明終)
で の場合が j19 である。上三角行列 は、さらに対角行列とせん断に分けられるから、結論はこう言い換えられる。原点を動かすどんな可逆な一次変換も、せん断・軸方向の伸縮・回転(と、必要なら 1 回の裏返し)を順に行うだけで作れる。 第 7 章で並べた基本的な変換たちは、単なる代表例ではなく、すべてを生成する部品だったのである。
QR 分解は計算の道具としても主役級で、連立一次方程式を安定して解いたり、固有値を数値的に求めたり(QR 法)するのに使われる。小話 kb2 で触れた「逆行列があっても実際には戻せない」問題に対して、逆行列を直接計算せずに済ませる手段でもある。直交行列は長さを保つので、計算の途中で誤差を増幅しないという性質があるためだ。
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