第12章の最後で、$y'$ を速度、$y''$ を加速度として読むこと、関数を接線で近似することを予告しました。この章の前半では、時刻 $t$ とともに動く点の位置を微分して、**速度**と**加速度**を求めます。数直線の上の運動から始めて、平面上を動く点(円運動やサイクロイド)、水面の高さや風船の半径のような「時間とともに変わる量」まで広げます。後半では、グラフを接線で置きかえて $\sqrt{4.02}$ や $\sin 31^\circ$ のおよその値を求める**近似式**を学びます。第12章の凹凸を使うと、その近似が本当の値より大きいか小さいかまでわかります。最後に、接線の代わりに放物線を使う**2次の近似式**に進みます。
直線上の点の運動
第12章 公式4 の例えで、投げ上げたボールの高さを f とすると、速さが f′,加速度が f′′ にあたると述べました。この章では、この読み方を正式に定めます。
一本道を行き来する路線バスに乗っているところを想像してください。起点から何 km の地点にいるかが位置 x です。終点へ向かう間は速度が正、折り返して起点へ戻る間は負になります。運転席の速度計が示すのは、向きを除いた速さ ∣v∣ です。
では加速度は何かというと、体で感じるものです。発車のときには背中が座席に押しつけられ、停車のときには体が前へつんのめります。あの感覚の強さと向きが加速度です。一定の速さでまっすぐ走っている間は、速度はあっても加速度は 0 で、目を閉じると止まっているのと区別がつきません。
位置を時刻で1回微分すると速度、2回微分すると加速度で、速度の符号は進む向き、加速度は速度の変わり方を表すということです。
例題1:直線上の点の運動
数直線上を動く点 P の時刻 t における座標が x=t3−6t2+9t (t≧0) で表されるとき、次のものを求めなさい。
(1) t=2 における P の速度・速さ・加速度
(2) P が運動の向きを変える時刻と、そのときの P の座標
(3) P の速さが増している時刻 t の範囲
【解答】
v=dtdx=3t2−12t+9=3(t−1)(t−3),α=dtdv=6t−12=6(t−2)(1) t=2 のとき v=12−24+9=−3,α=0 です。
速度 −3,速さ 3,加速度 0(2) v と α の符号を1つの表にまとめます。
v の符号が変わるのは t=1, 3 です。
t=1 のとき座標 4,t=3 のとき座標 0(3) 速さが増すのは、v と α が同じ符号のときです。表から、1<t<2(どちらも負)と t>3(どちらも正)です。
1<t<2,t>3※ 1<t<2 では P は負の向きに、だんだん速く進んでいます。「加速度が負 = 遅くなる」とは限らない点に注意しましょう。
平面上の点の運動
座標平面上を動く点は、x 座標と y 座標がそれぞれ時刻 t の関数になります。第11章の媒介変数表示は、そのまま「動く点の記録」と読めます。
観覧車のゴンドラは、一定のゆっくりした速さで回っています。速さは変わらないのに、進む向きは、上り、てっぺんで真横、下りと、絶えず変わります。速度は「向き」と「速さ」の組なので、向きが変われば速度も変わり、加速度が生まれます。その加速度は、いつも観覧車の中心を向いています。ゴンドラを中心へ引き寄せ続け、円の外へ飛び出さないようにしているのが、この加速度です。
平面上の運動では、x と y をそれぞれ時刻で微分して組にしたものが速度・加速度で、その大きさは三平方の定理で求めるということです。
例題2:平面上の点の運動
(1) 座標平面上を動く点 P の時刻 t における座標が x=2cos3t,y=2sin3t のとき、P の速さと加速度の大きさを求めなさい。また、加速度の向きを求めなさい。
(2) 座標平面上を動く点 P の時刻 t における座標が x=t−sint,y=1−cost (0≦t≦2π) のとき、P の速さを t の式で表し、速さの最大値と、そのときの P の座標を求めなさい。
【解答】
(1)
v=(−6sin3t, 6cos3t),∣v∣=36sin23t+36cos23t=6α=(−18cos3t, −18sin3t)=(−9x, −9y),∣α∣=182(cos23t+sin23t)=18α は、P の座標 (x, y) の符号を反対にして 9 倍したものなので、P から原点 O へ向かう向きです。
速さ 6,加速度の大きさ 18,加速度の向きは P から 円の中心 O へ向かう向き
(2)
dtdx=1−cost,dtdy=sint∣v∣2=(1−cost)2+sin2t=2−2cost=4sin22t(最後は半角の公式 1−cost=2sin22t です。)0≦t≦2π では sin2t≧0 なので
∣v∣=2sin2t速さが最大になるのは 2t=2π,つまり t=π のときで、P の座標は (π−0, 1−(−1))=(π, 2) です。
t=π で最大値 2,そのときの P の座標は (π, 2)※ (1) は半径 2,ω=3 の等速円運動で、速さ rω=6,加速度の大きさ rω2=18 です。(2) は半径 1 の円が x 軸の上を滑らずに転がるときの周上の点の軌跡、サイクロイド(第10章の小話・第11章 j16)です。円のてっぺん (π, 2) で最も速く、地面に触れる t=0, 2π では速さが 0,つまり一瞬止まっています。自転車のタイヤの地面に触れている部分は、実は止まっているのです。
いろいろな量の変化率
動くのは点だけではありません。水そうの水面の高さ、ふくらむ風船の半径のように、時間とともに変わる量なら、同じように時刻で微分できます。
風船に一定の勢いで空気を吹き込むと、体積は毎秒同じだけ増えます。ところが、ふくらみ始めはぐんぐん大きくなるのに、大きくなってからは、同じように吹いても半径はなかなか伸びません。球の体積は V=34πr3 なので dtdV=4πr2⋅dtdr です。表面積 4πr2 が広くなるほど、同じ量の空気が薄く広がってしまい、半径の伸び dtdr は小さくなります。
時間とともに変わる量どうしの関係式を作り、両辺を時刻で微分すれば、わからない量の変化の速さが、わかっている量の変化の速さから求まるということです。
例題3:水面の上がる速さ
深さ 10 cm,口の半径 5 cm の直円錐の容器を、頂点を下にして置き、毎秒 2 cm3 の割合で水を注ぎます。水の深さが 4 cm になった瞬間について、次のものを求めなさい。
(1) 水面が上がる速さ
(2) 水面の面積が増える速さ
【解答】
時刻 t 秒での水の深さを h cm,水面の半径を r cm,水の体積を V cm3 とします。容器の形から r:h=5:10 なので r=2h で
V=31πr2h=12πh3(1) 両辺を t で微分すると
dtdV=4πh2⋅dtdhdtdV=2,h=4 を代入すると 2=4π⋅dtdh なので
dtdh=2π1毎秒 2π1 cm(2) 水面の面積を S cm2 とすると S=πr2=4πh2 です。
dtdS=2πh⋅dtdh=2π⋅4⋅2π1=1毎秒 1 cm2※ dtdh=πh28 なので、水面は深くなるほどゆっくり上がります。容器が上ほど広いからです。
1次の近似式
第3章の厳密定義で、接線は「その点の近くでグラフにいちばん近い直線」だと見ました。第11章 j20 の ex≧1+x も、y=ex と接線 y=1+x の関係でした。そこで、x=0 の近くでは ex の値を 1+x で代用しよう、と考えるのが近似式です。
「2% の値上げが2年続くと、合わせて約 4% の値上げ」と暗算することがあります。正確には 1.022=1.0404 で 4.04% ですが、「約 4%」で十分なことがほとんどです。これは (1+x)2≒1+2x を使った近似です。ただし、10年続くと 1.0210=1.219⋯ で、「約 20%」とのずれが目立ってきます。x が 0 に近いときだけ使える、というのが近似式の約束です。
h が小さいとき、f(a+h) は接線の高さ f(a)+f′(a)h でほぼ代用できるということです。
例題4:近似値と増分
(1) 1次の近似式を用いて、sin31∘ の近似値を小数第3位まで求めなさい。ただし、π=3.14,3=1.73 とします。
(2) 球の半径が 1% 増えると、体積は約何 % 増えるかを求めなさい。
【解答】
(1) 微分の公式は弧度法で成り立つので、角を弧度法に直します。31∘=6π+180π です。f(x)=sinx,a=6π,h=180π とすると、f′(x)=cosx なので
sin31∘≒sin6π+cos6π⋅180π=21+23⋅180π3601.73×3.14=3605.4322=0.01508⋯ なので
sin31∘≒0.5+0.0151=0.5151≒0.515(2) 半径を r,体積を V=34πr3 とし、半径が Δr 増えたときの体積の増加を ΔV とすると
ΔV≒drdVΔr=4πr2ΔrよりVΔV≒34πr34πr2Δr=3⋅rΔrrΔr=0.01 なので VΔV≒0.03,つまり 約 3% 増えます。
※ (1) の真の値は sin31∘=0.51503⋯ です。(2) の正確な値は 1.013=1.030301 で、確かに約 3% です。一般に、y=xn なら yΔy≒nxΔx で、「x が 1% 増えると y は約 n % 増える」となります。
近似の誤差と凹凸
近似式は「ほぼ等しい」としか言いません。けれども、第12章で学んだ凹凸を使うと、近似値が本当の値より大きいか小さいかが、計算せずにわかります。
だんだん急になる上り坂を歩いているとします。今いる地点の傾きのまま進んだと考えて 100 m 先の高さを見積もると、実際の坂はその先でもっと急になるので、見積もりは低めに出ます。反対に、だんだんゆるやかになる坂では、見積もりは高めに出ます。だんだん急になる坂が下に凸、ゆるやかになる坂が上に凸です。
下に凸なグラフの接線による近似は小さめ、上に凸なら大きめに出るので、第2次導関数の符号を見れば近似値と真の値の大小がわかるということです。
例題5:近似の大小
(1) 近似式 1+x≒1+2x を導き、1.02 の近似値を求めなさい。また、その近似値が真の値より大きいことを示しなさい。
(2) 近似式 sinx≒x による近似値 sin0.1≒0.1 が、真の値より大きいか小さいかを確かめなさい。
【解答】
(1) f(x)=1+x=(1+x)21 とおくと、f′(x)=21(1+x)−21 なので f(0)=1,f′(0)=21 です。よって 1+x≒1+2x で、x=0.02 とすると
1.02≒1+0.01=1.01さらに
f′′(x)=−41(1+x)−23<0なので、y=1+x は上に凸で、グラフは接線 y=1+2x より下にあります。よって 1.02<1.01 で、近似値は真の値より大きくなります。(証明終)
(凹凸を使わず、1.012=1.0201>1.02 から 1.01>1.02 と確かめることもできます。)
(2) f(x)=sinx とすると f′′(x)=−sinx で、0<x<π では f′′(x)<0 です。y=sinx は 0≦x≦π で上に凸なので、グラフは原点における接線 y=x より下にあり、sin0.1<0.1 です。
近似値 0.1 は真の値より大きい※ 真の値は 1.02=1.00995⋯,sin0.1=0.09983⋯ です。どちらも近似値が少しだけ大きく、その差はとても小さいことがわかります。
2次の近似式
1次の近似式は、接線、つまり「値」と「傾き」をそろえた直線で関数を代用しました。「曲がり具合」まで、つまり第2次導関数までそろえた放物線を使えば、近似はもっと正確になります。
秒速 10 m で走っていた車が、ブレーキをかけ始めた瞬間を考えます。1秒後の位置を「今の速度のまま進んだら」と見積もると 10 m 先です。けれども、ブレーキで速度が毎秒 4 m/s ずつ落ちているなら、実際は 10−21⋅4⋅12=8 m 先です。1次の近似式は「今の速度のまま進んだら」、2次の近似式は「今の加速度もそのまま続いたら」という予測です。加速度まで入れると、見積もりがぐっと正確になります。
値・傾き・曲がり具合(f′′)の3つをそろえた放物線で関数を代用するのが2次の近似式で、x2 の係数は 2f′′(0) になるということです。
例題6:2次の近似式
(1) x が 0 に近いときの、ex と cosx の2次の近似式を求めなさい。
(2) (1) を用いて、e0.1 と cos0.1 の近似値を求めなさい。
【解答】
(1) f(x)=ex なら、f(0)=f′(0)=f′′(0)=1 なので
ex≒1+x+2x2g(x)=cosx なら、g′(x)=−sinx,g′′(x)=−cosx なので g(0)=1,g′(0)=0,g′′(0)=−1 で
cosx≒1−2x2(2) x=0.1 とすると
e0.1≒1+0.1+0.005=1.105,cos0.1≒1−0.005=0.995※ 真の値は e0.1=1.10517⋯,cos0.1=0.99500⋯ です。1次の近似式では e0.1≒1.1,cos0.1≒1 にしかならないので、2次の項の効き目がよくわかります。第12章 例題7(1) より e0.1>1.105,j20 で示すように cos0.1>0.995 で、どちらも近似値は少し小さめです。
この章のまとめと第14章へ
この章では、導関数を2通りに読みました。
第1章から積み上げてきた「微分」の話は、ここでひと区切りです。次の第14章からは、再び積分に戻ります。第11章で微分できるようになった ex,logx,三角関数を、置換積分・部分積分という2つの技を使って積分していきます。
ガリレオの斜面 — 落ちる距離は時間の2乗に比例する
重い物ほど速く落ちる。古代ギリシャのアリストテレス以来、2000 年近くそう信じられてきました。これをくつがえしたのが、イタリアのガリレオ・ガリレイです。ピサの斜塔から重さの違う球を落として見せたという有名な話がありますが、弟子の書いた伝記に出てくるだけで、本当に行ったかどうかははっきりしません(※諸説あり)。
確かなのは、ガリレオが1638年の著書『新科学対話』で報告した斜面の実験です。まっすぐに落ちる物は速すぎて、当時の道具では時間を測れません。そこでガリレオは、ゆるやかな斜面に溝を掘り、青銅の球を転がして、落下を「ゆっくり再生」しました。時間は、大きな水おけの底から細い管で流れ出る水を集め、その重さを量って測ったといいます。
結果は、「同じ時間ごとに進む距離が 1:3:5:7:⋯ と奇数の比で増える」というものでした。1+3+5+⋯+(2n−1)=n2 なので、落ちた距離は時間の2乗に比例します。この章の言葉で書けば、x=21gt2 を微分して
v=dtdx=gt,α=dtdv=gとなり、速度は時間に比例して増え、加速度はずっと一定です。ガリレオはまだ微分を知りませんでしたが、「加速度が一定の運動」という考えを、実験からつかみ取っていたのです。
豆知識
1971年、アポロ15号の宇宙飛行士デイヴィッド・スコットは、月面でハンマーと鳥の羽根を同時に落として見せました。空気のない月では、2つは並んで落ち、同時に地面に着きました。その様子はテレビで中継され、スコットは「ガリレオは正しかった」と語りました。
お金が2倍になる年数 — 72の法則
年利 r% の複利でお金を預けると、何年で2倍になるでしょうか。答えは「72÷r 年」でほぼ当たります。年利 6% なら 72÷6=12 年、8% なら 9 年です。実際、1.0612=2.012⋯,1.089=1.999⋯ で、驚くほど正確です。これを 72の法則 といいます。
種明かしは、この章の近似式 log(1+x)≒x(j05)です。n 年で2倍になるとすると (1+100r)n=2 なので、両辺の自然対数をとって
n=log(1+100r)log2≒100rlog2=r69.3⋯となります(log2=0.693⋯)。本当は「69 の法則」なのです。
それなのに 72 を使うのには、2つの理由があります。1つは、j13 で見たように log(1+x)<x で、近似の分母が大きすぎるぶん、69.3 では少し足りないこと。数 % の年利では、72 のほうが実際の値に近くなります。もう1つは、72 が 2, 3, 4, 6, 8, 9, 12 で割り切れて、暗算しやすいことです。
豆知識
72の法則は、1494年にイタリアのルカ・パチョーリが著した数学書『スンマ』に、説明なしで登場します。自然対数も微分もない時代に、経験から見つけられていたようです。借金にも同じ計算が使えて、年利 15% なら 72÷15=4.8,およそ5年で返すべき額が2倍になります。
アインシュタインの式に隠れたニュートン
アインシュタインは1905年に発表した特殊相対性理論で、速さ v で動いている質量 m の物体のエネルギーを、光の速さ c を使って
E=1−c2v2mc2と表しました。v=0 とすると、有名な E=mc2 になります。止まっていても物体がもっているエネルギーです。動いていることで増えたぶん、つまり運動エネルギーは E−mc2 です。
ここで近似式 (1+x)p≒1+px を、x=−c2v2,p=−21 として使ってみます。身の回りの速さは光の速さ(秒速約 30 万 km)に比べてとても小さいので、x は 0 にきわめて近い数です。
(1−c2v2)−21≒1+2c2v2よりE−mc2≒mc2⋅2c2v2=21mv2出てきたのは、高校の物理で習うニュートン力学の運動エネルギー 21mv2 です。ニュートンの式は、アインシュタインの式の「1次の近似式」だったのです。新幹線の速さ(秒速約 80 m)でも cv は1千万分の3ほどなので、ずれはまったく気になりません。けれども、光の速さに近い粒子を扱うと、近似では済まなくなります。
豆知識
GPS 衛星は秒速約 4 km で飛んでいるため、相対性理論の効果で、衛星の時計は地上とわずかにずれます。重力が弱いことによる効果(一般相対性理論)と合わせると、1日に約 38 マイクロ秒進みます。わずかに思えますが、補正しないと位置の誤差が1日で 10 km 以上にふくらむといわれ、GPS は相対性理論の補正を組み込んで動いています。
※ここは発展ページです。高校の範囲では、本文の公式を正しく使えれば十分です。ここでは、本文で「≒」とだけ書いた近似式の誤差を式で表し、それを多項式の近似へ広げたテイラーの定理、e が無理数であることの証明、第6章の小話で紹介したニュートン法がなぜうまくいくのかまでを確かめます。
定義1:1次の近似式の誤差
関数 f(x) が x=a で微分可能なとき、
R1(h)=f(a+h)−{f(a)+f′(a)h}を、1次の近似式 f(a+h)≒f(a)+f′(a)h の誤差という。このとき
h→0limhR1(h)=h→0lim{hf(a+h)−f(a)−f′(a)}=0が成り立つ。
つまり、近似式の「≒」は、「誤差が h よりも速く 0 に近づく」という意味です。第3章の厳密定義で、傾き f′(a) の直線だけがこの性質をもつ(接線は最良の1次近似)ことを見ました。では、誤差はどのくらいの大きさでしょうか。
定理1:1次の近似式の誤差の公式
関数 f(x) が a と a+h を含む区間で2回微分可能ならば、
f(a+h)=f(a)+f′(a)h+2f′′(c)h2を満たす c が、a と a+h の間に存在する。
証明 h=0 とし、b=a+h とおく。定数 K を f(b)=f(a)+f′(a)(b−a)+K(b−a)2 となるように定め、
φ(x)=f(b)−f(x)−f′(x)(b−x)−K(b−x)2とおく。φ(b)=0 であり、K の決め方から φ(a)=0 である。φ(x) は微分可能で
φ′(x)=−f′(x)−{f′′(x)(b−x)−f′(x)}+2K(b−x)=(b−x){2K−f′′(x)}第12章 厳密定義の定理1(ロルの定理)より、φ′(c)=0 となる c が a と b の間にある。b−c=0 なので K=2f′′(c) である。(証明終)
誤差は R1(h)=2f′′(c)h2 です。ここから2つのことがわかります。
- 誤差の符号は f′′(c) の符号と同じです。f′′>0(下に凸)なら誤差は正、つまり近似値は小さめです。本文 公式5 は、この定理の言いかえです。
- 区間で ∣f′′(x)∣≦M なら、∣R1(h)∣≦2Mh2 です。たとえば 1.02≒1.01 では、f(x)=1+x について 0≦x≦0.02 で ∣f′′(x)∣=41(1+x)−23≦41 なので、誤差は 81×0.022=0.00005 以下です(実際の誤差は 0.0000495⋯)。
同じ証明で、近似の多項式の次数をいくらでも上げられます。
定理2:テイラーの定理
関数 f(x) が a と b を含む区間で n+1 回微分可能ならば、
f(b)=k=0∑nk!f(k)(a)(b−a)k+(n+1)!f(n+1)(c)(b−a)n+1を満たす c が、a と b の間に存在する。ただし f(0)(a)=f(a),0!=1 とする。
証明 a=b とする。K を f(b)=k=0∑nk!f(k)(a)(b−a)k+K(b−a)n+1 となるように定め、
φ(x)=f(b)−k=0∑nk!f(k)(x)(b−x)k−K(b−x)n+1とおくと、φ(b)=0,φ(a)=0 である。k≧1 のとき
{k!f(k)(x)(b−x)k}′=k!f(k+1)(x)(b−x)k−(k−1)!f(k)(x)(b−x)k−1で、k=0 の項の導関数は f′(x) である。これらを k=0 から n まで足すと、隣どうしが打ち消し合い、n!f(n+1)(x)(b−x)n だけが残る。よって
φ′(x)=(b−x)n{(n+1)K−n!f(n+1)(x)}ロルの定理より φ′(c)=0 となる c が a と b の間にあり、b−c=0 なので K=(n+1)!f(n+1)(c) である。(証明終)
n=0 とすると平均値の定理、n=1 とすると定理1です。本文の2次の近似式は、n=2 の場合の最後の項(誤差)を捨てたものです。
定理3:e の値
すべての自然数 n について
0<e−k=0∑nk!1<(n+1)!3が成り立つ。特に e=k=0∑∞k!1=1+1+2!1+3!1+⋯ である。
証明 f(x)=ex は何回微分しても ex なので、定理2を a=0,b=1 として使うと
e=k=0∑nk!1+(n+1)!ec,0<c<1ex は増加関数なので 1<ec<e であり、第11章 厳密定義より e≦3 なので、0<(n+1)!ec<(n+1)!3 である。n→∞ のとき (n+1)!3→0 なので、はさみうちの原理より部分和は e に収束する。(証明終)
n=9 とすると、誤差は 10!3=36288003<0.000001 で、k=0∑9k!1=2.7182815⋯ から e=2.71828⋯ が確定します。第11章では (1+n1)n で e を定めましたが、こちらのほうがはるかに速く e に近づきます。
定理4:e は無理数である
e は無理数である。
証明 e が有理数 qp(p,q は自然数)で表せたとする。定理3より e=2.718⋯ は整数ではないので、q≧2 である。定理3の不等式で n=q とし、各辺に q! を掛けると
0<q!e−k=0∑qk!q!<q+13≦1ここで q!e=p⋅(q−1)! は整数であり、k≦q なら k!q! も整数なので、真ん中の式は整数である。ところが、0 と 1 の間に整数はない。これは矛盾なので、e は無理数である。(証明終)
最後に、第6章の小話と j18 のニュートン法が、なぜ必ず答えにたどり着くのかを確かめます。
定理5:ニュートン法の収束
関数 f(x) は区間 α≦x≦b で2回微分可能で、f(α)=0,f′(x)>0,f′′(x)>0 を満たすとする。α<x1≦b として
xn+1=xn−f′(xn)f(xn)で数列を定めると、{xn} は減少しながら α に収束する。
証明 α<xn≦b と仮定して、α<xn+1<xn を示す。f は増加関数なので f(xn)>f(α)=0 であり、f′(xn)>0 なので xn+1<xn である。また、f′′>0 なので、第12章 厳密定義の定理3(i) より、グラフは点 (xn, f(xn)) における接線より上にある。x=α で比べると
0=f(α)>f(xn)+f′(xn)(α−xn)これを変形すると α<xn−f′(xn)f(xn)=xn+1 である。数学的帰納法により、すべての n で α<xn+1<xn となる。
{xn} は減少し、下から α でおさえられるので、第10章 厳密定義の単調有界定理により、ある値 β(α≦β≦b)に収束する。f と f′ は連続(微分可能なので)で f′(β)>0 だから、漸化式で n→∞ とすると β=β−f′(β)f(β),つまり f(β)=0 である。f は増加関数で f(α)=0 なので β=α である。(証明終)
j18 の f(x)=x2−2 は、2≦x≦2 でこの条件を満たします。定理1を使うと、xn+1−α はおよそ (xn−α)2 に比例することもわかり、正しい桁数がほぼ倍々に増えていきます。電卓やコンピュータが平方根をすばやく計算できるのは、この速さのおかげです。